人生の中で個人的、かつ最大の転機が結婚(それに付随する離婚)なら、次の大きな転機は子供の存在だろうか。私がそう感じるだけのことかもしれないが。
デレク・シアンフランス監督は、『ブルー・バレンタイン』で、一つの結婚の形をリアルに詩情豊かに描き尽くした。次の映画である『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は、子供と家族がテーマである。
結婚も、子供が生まれることも、一人の個人が、もう一人の個人と真正面から出会うという意味では同じだ。その前と後では、多かれ少なかれ違う人間にならざるを得ない。二色の絵の具が混ざって違う色になるように。
1話目の主人公、ルークは、劇的な変化を遂げる。実子の存在を知ってから、今まで築き上げてきたものを捨て、違う人間として生まれ変わろうとするのだ。残念なのは、本人や周りの人が望んだ方向へとすんなりと行かなかったこと。
そうだとしても、彼の愛のための悲壮な決断は、深く胸に突き刺さる。映画の冒頭で、ルークの孤独なあり方に息が詰まったのと同じように。
2話目の主人公のエイヴリーは、普通の映画なら立派なヒーローだろう。そのせいで、1話目のルークは、情けないアンチヒーローに見えてくる。ただ、デレク・シアンフランス監督の心情としては逆の方のような気がする。
その辺りの逆説的な描き方が上手い。ヒーロ的な行動を取るエイヴリーのほうが、普通人に見え、アンチヒーロー的行動を取るのルークのほうが、伝説的な人物に見えてくるのだから。
その理由は、エイヴリーとルークの息子が登場する3話目で見えてくる。この作品で描かれる父子の愛情は、どんな大恋愛より切なく、甘く、うっとりとさせられるのだ。
どこにいても、なにをしていても、それは必ず届くのだと。そこが、松林を超えた場所であったとしても。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は、愛に酔いしれたかったら、見逃す手はない映画なのである。 (オライカート昌子)
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
2012年 アメリカ映画/141分/監督:デレク・シアンフランス/出演:ライアン・ゴズリング(ルーク)、ブラッドリー・クーパー(エイヴリー)、エヴァ・メンデス(ロミーナ)、レイ・リオッタ(デルカ)、ベン・メンデルソーン(ロビン)、マハーシャラ・アリ(コフィ)、デイン・デハーン(ジェイソン)、エモリー・コーエン(AJ)
ローズ・バーン(ジェニファー)/配給:ファインフィルムズ
2013年5月25日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式サイト http://finefilms.co.jp/pines/