『ライフ・ウィズ・ミュージック』映画レビュー

『ライフ・ウィズ・ミュージック』の”ミュージック”は、美しい自閉症のティーン女性だ。耳が敏感すぎるため、ヘッドフォンが欠かせない。アレルギーもひどい。話す言葉も数少ない。朝は祖母に卵を焼いてもらった後、決まりきったルートで散歩に出かける。彼女の様子は、近所の人が温かいまなざしで見守っている。

ある日、祖母が突然倒れて他界してしまい”ミュージック”の元へ、唯一の身寄りの姉、ズーが現れる。ずっと疎遠だったズーは、元アル中で、保護観察中。孤独で荒み切った生活をしていた。”ミュージックとの生活は、ズーをどう変えるのか、二人の間に何が芽生えるのか。

リアルに見たら、”ミュージック”とズーが陥るのは、困難この上ない状況だ。それもきちんと描きつつ、映画世界は、カラフルな豊かさで溢れかえっている。『ライフ・ウィズ・ミュージック』は、人生で避けられない様々なダークサイドを描きながらも、それを乗り越えるポジティブさも強調される。音楽、視線、優しさや温かさで、包み込まれる。小さな勇気も与えてくれる。

そのための方法の一つとして採用されているのは、音楽とダンスだ。”ミュージック”の心象世界として。ストーリー展開の表現としても組み込まれている。ミュージカル的方法だが、『ライフ・ウィズ・ミュージック』の場合は、ミュージック・ビデオ風の色彩やポップ感覚が強め。極めて個性的な映像空間に引き付けられる。『ライフ・ウィズ・ミュージック』の監督・脚本・原案の、シンガーソングライター、Siaの世界でもある。

音楽世界とストーリーとの混ざり具合の心地良さが、映画全体に流れを作り、演技や映像に独特の風味を与えている。”ミュージック”とズーを取り巻く隣人たちの厚みのある人間性も忘れがたい。まるで守護天使のように影のように寄り添う少年のサイドストーリーは、独特の手触りで、いつまでも心に残る。
(オライカート昌子)

ライフ・ウィズ・ミュージック
2月25日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
【監督・製作・原案・脚本】 シーア
【出演】ケイト・ハドソン(『あの頃ペニー・レインと』)、マディ・ジーグラー(Sia「シャンデリア」MV)、レスリー・オドム・Jr.(ミュージカル「ハミルトン」)
(c) 2020 Pineapple Lasagne Productions, Inc. All Rights Reserved.
【配給】フラッグ
【公式サイト】https://lifewithmusic.jp/
【公式Twitter/Instagram】@lifewithmusicjp #ライフウィズミュージック

原題:MUSIC/2021/アメリカ/107分/カラー/シネスコ/DCP/5.1ch/字幕翻訳:原田りえ/監修:山登敬之/【G】