『センチメンタル・バリュー』解説
『センチメンタル・バリュー』とは

2025年、第78回カンヌ国際映画祭で本映画祭最長19分間に及ぶ圧巻のスタンディングオベーションで会場を沸かせグランプリ受賞。本年度アカデミー賞にも主要部門を含む9部門でノミネート。
『センチメンタル・バリュー』監督・キャスト
監督は、第94回アカデミー賞で脚本賞・国際長編映画賞の2部門にノミネートされ、日本でも大ヒットを記録した『わたしは最悪。』のヨアキム・トリアー。
主演に『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスヴェ。父親役には名優ステラン・スカルスガルド。インガ・イブスドッテル・リッレオースに加え、ハリウッドからエル・ファニング。
『センチメンタル・バリュー』映画レビュー万華鏡のような輝き

とことん贅沢な映画を見たくはないだろうか。『センチメンタル・バリュー』は、そんな映画だ。豊かなテーマにスタイリッシュで的確な映像。キャストアンサンブルの見事さ。繊細さと驚きがちりばめられたシーン。
開始10分で映画を2本分見たような気分になる。最初の5分間は、悲劇と喜劇を内包した家の話。オスロ郊外の古いけれど優雅で美しい緑に囲まれた家だ。光と影に満たされた鮮やかな描写で披露される。その家は『センチメンタル・バリュー』の中でも象徴的存在だ。チェーホフの「かもめ」の中の一節「わたしは女優」のせりふで締めくくられる。

次の5分間は、舞台女優の話。舞台で演技する直前の出来事が、たった5分。それなのに起承転結の流れが完璧だ。このパートの最後は特にダイナミックな力がある。ところが、映画はまだ最初の10分間。
続いてのメインストーリーも、シーンの独立性と自立性の粒だちが上手い。個性的なシーンの連なりが止まらない。

中盤の父娘が、家の外で一緒にタバコを吸うシーンが印象深かった。無言のシーンだ。目を合わせて見つめ合い微笑む。まるで愛し合う恋人同士のように。ぽつんと挟み込まれたシーン。疎遠で長い事会話することもなかった二人の深層の願いが叶えられた瞬間のように提示された夢のような瞬間だ。
テーマも一つではない。父親と娘たちの物語でもあり、芸術に向き合う姿勢も描かれ、現在と過去の時間の時間軸の変化、登場人物の心理の深み。個々のテーマが重なり合いながら緻密に絡み合う。その丹念で重層的な描き方は余裕と職人の技が感じられる。
硬質な空気とあたたかな人の温度にいつまでも浸っていたい気分にさせられた。ちなみにセンチメンタル・バリューという言葉には、感情的価値、思い出の価値という意味がある。
センチメンタル・バリュー
2月20日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
© 2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE
監督:ヨアキム・トリアー 『わたしは最悪。』
脚本:ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト
出演:レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオース、エル・ファニング
配給:NOROSHI ギャガ
英題:SENTIMENTAL VALUE/2025年/ノルウェー/カラー/ビスタ/5.1ch/133分/字幕翻訳:吉川美奈子/レーティング:G





