『ランサム 非公式作戦』映画レビュー 風味が三段階にレベルアップ!人質奪還本格派

『ランサム 非公式作戦』の主人公は、ごく普通の外交官。突然、特別任務を引き受けることになり、世界で最も危険な場所、レバノンのベイルートへと向かう。そこで出会うのは、半端ないレベルと数の危機だ。カーチェイス、銃撃戦、ワイヤーワークなど、スリルと冒険も盛りだくさん。『ランサム 非公式作戦』は、おもしろさを堪能できる映画だ。

おもしろさの理由の一つは、3つのトーンで変化して行くところ。その作りのせいで、展開は広がりを見せ、驚きと感動を呼ぶレベルまで変化していく。

最初は、ユーモアたっぷりの危機アクションだ。主人公の外交官、ミンジュン(ハ・ジョンウ)は、有名大卒の後輩が出世していくのを見て、不満爆発寸前。そんな折、一本の電話を受ける。それは、レバノンで行方不明だった外交官からの暗号電話だった。

外交官奪還作戦のために乗り込んだ現地レバノンでは、思いもよらぬ危機の連発。頼みとするのは、銃撃戦のさなかに乗り込んだタクシーの運転手のみ。そのタクシー運転手はレバノン在住の韓国人パンス(チュ・ジフン)だ。

危機アクションがさく裂する中、ミンジュンとパンスは、コメディ版バディ映画さながらの、珍道中を繰り広げる。そうか、これはアクションコメディだったのか、と、思った矢先に、急転換が待っている。

今までのストーリーが、レベル1だとすると、レベル2は難度が高い。危険度とアクションのキレが爆発し、ストーリーは深みを増す。シリアスな色も帯び始める。見ている側は、息を詰めてスクリーンを凝視することになる。

レベル3では、どうなるのか。ラストで待っているのは、今までのすべての物語を吹き飛ばすような、大きな余韻だ。

レベルが変わるにつれ、ミンジュンとパンスも変化して行くのも見どころ。俳優たちの底力が花開く。

個人的に感動したのは、『ランサム 非公式作戦』の80年代のレバノン・ベイルートの完璧な再現だ。風景やファッションもこれ以上なくリアル。ロケはモロッコだが、使われている言葉は、レバノン方言。細かいところまで手を抜いていない。例えば、「アッラーマアク」というフレーズが何度かでてくるが、現地以外ではなかなか聞かない言葉だ。かつては「中東の真珠」と呼ばれた危険な場所へタイムトラベルしたような気分になった。

ところで、『ランサム 非公式作戦』に副題をつけるとしたら、『タクシー運転手 約束は海を越えて』になるかもしれない。あれ? どこかで聞いたタイトル? 

『ランサム 非公式作戦』は、『タクシー運転手 約束は海を越えて』の何年か後に起きた実話のフィクション映画化だ。映画『ソウルの春』での政変後の政府の内情もしっかり描いている。そういう意味では、別角度での続き物として見ることもできる。韓国映画は、たとえアクション映画であっても、自国の暗部にもしっかり光を当てていく俯瞰目線が独特だ。

監督は、『最後まで行く』、『トンネル闇に鎖(とざ)された男』、「キングダム」シリーズのキム・ソンフン。

(オライカート昌子)

ランサム 非公式作戦
9月6日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
© 2023 SHOWBOX AND WINDUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.
監督:キム・ソンフン脚本:キム・ジョンヨン、ヨ・ミジョン撮影:キム・テソン音楽:モグ編集:キム・チャンジュ
出演:ハ・ジョンウ、チュ・ジフン
2023年/韓国/韓国語・英語・アラビア語・フランス語/シネスコ/5.1ch/133分/原題:비공식작전/英題:Ransomed/字幕翻訳:福留友子/映倫:G/配給:クロックワークスCOPYRIGHT © 2023 SHOWBOX AND WINDUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.