カツベン!の画像日本映画が、面白い時代になってきた。そんな中、周防 正行監督が、『カツベン!』で5年ぶりに参戦。大正時代の映画の黎明期を、エンタメ精神たっぷりに描いている。

『カツベン!』は、映画好きな人でも、知らなかったであろう、映画トリビア満載な上、細かいところも楽しめる。映画愛を試されるチャーミングな作品だ。

チャップリンやバスター・キートンが活躍していたサイレント映画時代に、日本では独自の映画解説者がいた。それが活動弁士、タイトルにもあるカツベンだ。

スクリーンの横に演壇を作り、個性豊かなカツベンたちが、独自の見解で映画を作り直す。弁舌鮮やかにセリフも一人芝居。カツベン次第で、映画は変化し、より面白くなり、切なくもなる。

活動弁士は自由を与えられた映画の解説、翻訳者であり、映画をネタに自分の世界を繰り広げる当時のトップエンターテイナーだった。

観客もそれを十分承知していて、活動写真(映画)を見に行くことイコール、スクリーン映像プラス、活動弁士の話術と物語作成力、そして生演奏をわいわいがやがや楽しむことだった。

普通だったら、この事実を披露するのが映画の鍵となりそうなところ。

ところが、周防監督は、この驚きの史実は単なる背景の一つにとどめている。

こんなこと知ってた? 俺は知ってたんだぜ、凄くない? なんて強調したくなるところを、説明すらしない。知られざるトリビアは、あくまでも道具。豊富なエンタメ要素が主役の映画となっている。

その要素の一つが、型にはまったキャラクターたち。こむずかしい人物像の掘り下げなどはなく、スムーズなこと、わかりやすさこだわって、すがすがしいほどの類型で押し切っている。

徹底的な悪人、小悪魔的な悪人の令嬢、凶暴だけど憎めない小悪人、傲慢なトップスターのカツベン、嫉妬する小物演奏者、ちょっと抜けているけど仕事は徹底する警察官、幸薄い美女、恐妻家、堕ちた元スターなど、

カツベン!主役の、カツベンに憧れる偽活動弁護士に扮するのは、草食系俳優を代表する成田凌。今年2019年には、映画6本に出演している売れっ子だが、『カツベン!』の染谷俊太郎役は、幼馴染の栗原梅子を演じる黒島結菜とともに、オーデションで射止めた。

永瀬正敏、高良健吾、竹中直人、竹野内豊、小日向文世、井上真央、池松壮亮などのきらびやかなスターたちが、気合の入ったドタバタコメディや、淡い恋の行方などを繰り広げる。面白くないわけがない。

『カツベン!』に欠点があるとすると、それは長所がそのまま短所となってしまう。カツベンの仕事自体、説明がないため、初めはよくわからない。

人物像が薄っぺらいと言われれば、そうとしか言いようがない。

だが、映画は楽しいものであっていい。今の若者が大好きなアーティストのライブに行って活力を取り戻すのと同じように、庶民が押し寄せて、日頃の憂さを一気に晴らすためのなくてはならない装置と考えると、ひたすらわかりやすくて、楽しいものが必要だ。

江戸・明治の歌舞伎もそういうものだったし、、ドダバタにすべてをかけたサイレント映画のレジェンドたちの映画もだいたいそうだ。今はジャンルの境界があいまい気味だが、映画も長い間そうだった。

完璧な小世界で、ドタバタコメディを自信をもってやり切って、見ているこちらを100%楽しませたいというシンプルさに心意気を感じる作品。

(オライカート昌子

カツベン!
(c)2019「カツベン!」製作委員会
2019年 12月13日(金)全国ロードショー
監督:周防 正行
出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊
オフィシャルサイト http://www.katsuben.jp/