あなたは、イタリア映画の監督に詳しい方だろうか? 私の場合,それほど詳しくはない。だから先日開かれた東京国際映画祭で、イタリア人ジャーナリストに「好きなイタリア人監督は誰?」と聞いてみた。答えは、「ナンニ・モラッティ」。ナンニ・モラッティ監督は、東京国際映画祭で特集上映されていた。
その「ナンニ・モラッティ」監督最新作が、『チネチッタで会いましょう』。最近で、これほど笑った映画はない。
映画監督ジョバンニが主人公。(監督自身が主人公を演じている)。 彼は久しぶりに映画製作に乗り出す。彼が作ろうとしている映画の題材は1956年当時のイタリア共産党。うーん、難しそう。と、思うのはまだ早い。
『チネチッタで会いましょう』は、笑える小技を繰り出しながら、ジョバンニが映画を完成させようとする主軸はすっきりしている。妻であり彼の作品のプロデューサーでもあるパウラは、秘密裏に精神分析医にかかっている。頼みの綱の製作者は、どうやら詐欺師だったらしい。娘は思いがけない男性と同棲を始めた。主演俳優と主演女優は、政治映画を恋愛映画に勝手に変えようとしている。
細かいところまで神経が行き届き、こだわりがあり、しかも面白い。映画監督というのは、こういう個性があるものだと納得してしまった。『チネチッタで会いましょう』は、映画好きはもちろん、今後映画を作りたいと思っている人には特におすすめしたい。映画だけでなくモノづくりを志している人には、心構え的に参考になると思う。
時にはさみこまれるミュージカル風シーンや忘れがたいシーン、笑い過ぎてしまったシーンなどがイタリア風ごった煮のように混ざりながら、素晴らしいラストに向けて進む列車に乗ったような気分だ。
ナンニ・モラッティ監督は、1053年生まれ。『ミケーレの黄金の夢(1)』はベネチア国際映画祭の審査員特別グランプリを受賞。『ジュリオの当惑」(85)』でベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員特別賞)、シネマエッセイ『親愛なる日記」(93)』でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞。自身が父親役を兼ねた『息子の部屋」(01)』ではカンヌ国際映画祭最高賞のパルムドール受賞を果たした。今やイタリアを代表する監督・プロデューサーとして有名。
ところで、チネチッタとは、エウローパにある映画撮影所でヨーロッパ最大級の規模を誇っている。イタリア語で映画を意味するcinemaと都市を意味するcittaを合わせた造語で、原義は「映画都市」。チネチッタ川崎のことではないのでお間違いなく。
チネチッタで会いましょう
監督:ナンニ・モレッティ 脚本:フランチェスカ・マルチャーノ、ナンニ・モレッティ、フェデリカ・ポントレモーリ、ヴァリア・サンテッラ
音楽:フランコ・ピエルサンティ 撮影:ミケーレ・ダッタナージオ
出演:ナンニ・モレッティ、マルゲリータ・ブイ、シルヴィオ・オルランド、バルボラ・ボブローヴァ、マチュー・アマルリック
2023年/イタリア・フランス/原題:Il sol dell’avvenire/96分/ヴィスタサイズ/日本語字幕:関口英子
後援:イタリア大使館/特別協力:イタリア文化会館/配給:チャイルド・フィルム https://child-film.com/cinecitta
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