『HOW TO HAVE SEX』映画レビュー 瞬間の魔法を散りばめた才能を結集

『HOW TO HAVE SEX』(ハウ・トゥー・ハヴ・セックス)。タイトルの直接的表現と、可愛い女の子のカラフル画像を見て、この映画は、ラブコメなのかなあ、と思っていたら、大間違いだった。エネルギーときらめき満載のパーティ映画だった。だけどそれも半分だけ。『HOW TO HAVE SEX』は、優雅にチャーミングに描かれた、失うことと、成長の物語だった。

パーティ映画で、印象深いのは、ハーモニー・コリン監督の2作品、『ミスター・ロンリー』、『スプリング・ブレイカーズ』だ。現実から逃避する(パーティ)は、一度盛り上がった後、終わる。来たところにまた戻ることになる。あるいはまったく別の世界へと誘っていく。それが、パーティ映画や休暇映画、旅映画の規定路線だ。

『HOW TO HAVE SEX』でもこの路線は同じ。夜ごと開かれるパーティで有名な、ギリシャ・クレタ島のリゾート地マリアに向かった若い3人組女性。前半のパーティの狂騒は、針を振り切っていて、この後どうなるんだろうと思わせるぐらいハイボルテージ。音楽とダンス、酒とタバコとチーズポテト。クスリはなし。このあたりで、登場人物3人の若さがわかる。

遠景から3人に少しづつ接近していくカメラと脚本がスムーズだ。外面から内面への表現のシフトに絶妙な巧みさがあると言ってもいいだろう。3人のうちの一人タラ(ミア・マッケンナ=ブルース)が主人公。それを伝えるのにも時間をかける。その自然さが心地良さを生み、タラが映画の登場人物というより、身近な親しい人に思えるほどになってくる。

そう感じたシーンが、見事だった。夕方、パーティ参加の準備をしていたタラは、ベランダ越しに隣室の男性に話しかけられる。最初はろくに返事もしていなかったタラだったが、彼の一つの質問で、表情を変化させる。その時、タラの世界に突然吸い寄せられたような気分になった。タラは、その後様々な出来事に遭遇する。大切な人に起きているように、ハラハラさせられる。

『HOW TO HAVE SEX』の監督はモリー・マニング・ウォーカー。今作が長編一作目だが、相当な才能が出現したなと思ってしまった。主演のタラ役の、ミア・マッケンナ=ブルースも同様だ。二人の今後の活躍が楽しみでたまらない。

何かを失うことは、何かを得ること。何かを得ることは何かを失うこと。それをスタイリッシュに自然に描き切っている端正さにエールを送りたい。ちなみに、ラストシーンも、魔法のように力強い瞬間で終わる。若いって素晴らしい。その若さとは、年齢とは一切無関係だ。

(オライカート昌子)

HOW TO HAVE SEX
7月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©BALLOONHEAVEN, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE 2023

監督・脚本:モリー・マニング・ウォーカー(初長編監督作品)
出演:ミア・マッケンナ=ブルース、ララ・ピーク、サミュエル・ボトムリー、ショーン・トーマス、エンヴァ・ルイス、ラウラ・アンブラー
|91分|イギリス・ギリシャ|英語|カラー|ビスタ|5.1ch|原題:HOW TO HAVE SEX|日本語字幕:髙内朝子|PG-12