『宝島』映画レビュー 圧倒的体験ムービー

映画『宝島』は、圧倒的な映像とストーリーで見せるエポック的な映画だ。とてつもない熱気と、悲しみ。シーンを輝かせる祝祭感。淡い恋もある青春映画でもあり、消えた英雄にまつわる真相を追求するミステリー要素が軸。これほど多面的に様々な要素が一体化し、すべてが力強い映画は滅多にない。

時代は沖縄が本土復帰する20年前の1952年の沖縄。その日、一人の英雄、オンが消えた。オンと関わりのある3人を中心に、彼らが各自の道を歩みながらオンを探し続けるストーリーだ。オンが消えた日、一体何が起きたのか。映画で描かれる、最初の一日と最後の一日の比重が大きく、シーンの映像的力が襲い掛かってくるようだ。その変則的な時間配分のせいもあり、長さを感じなかった。

今まで本土の人間には知られていなかった沖縄の歴史と日々が迫ってきて、驚きや強い感動も呼ぶ。占領下の出口のない理不尽さを疑似体験させられる上、その苦しみは、米軍基地がある限り完全に消えることはない。

中心となる3人、オンの親友だったグスク、(妻夫木聡)オンの彼女のヤマコ(広瀬すず)、オンの弟のレイ(窪田正孝)の演技は、変化と深化が凄まじい。グスク役の妻夫木聡は表情と感情の振り幅と奥行きが素晴らしく、ヤマコ演じる広瀬すずは、『片思い世界』、『ゆきてかえらぬ』『遠い山なみの光』など最近の活躍とともに今や日本を代表する俳優であることを証明してくれる。そして、レイを演じる窪田正孝は、硬軟の落差で見せる実力を感じさせてくれた。

原作は第160回直木賞を受賞した真藤順丈の小説「宝島」。191分、全く飽きさせない骨太の映画を作り上げたのは、ドキュメンタリー映画作家出身で、ヒットシリーズ『るろうに剣心』を手掛けた大友啓史監督監督。まるで沖縄に住んでいたような、同じような体験をしたような格別な体験が残る。湧き上がる興奮はいつまでも消えない。

(オライカート昌子)

宝島
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太
塚本晋也、中村蒼、瀧内公美、栄莉弥、尚玄、ピエール瀧、木幡竜、奥野瑛太、村田秀亮、デリック・ドーバー
監督:大友啓史
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
2025年9月19日(金)より全国公開
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会

圧倒的な祝祭感、熱気、とてつもない悲しみ。これほど宝石のように様々な要素が一体化し、それぞれが力強い映画は滅多にない。

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