『めまい 窓越しの想い』映画レビュー(感想)

『めまい 窓越しの想い』のラストシーンは、特別な感情を呼び起こしてくれる。透明にきらめく風景が映画のすべてを表現している。

当初、主人公、ソヨン(チョン・ウヒ)の生活はこんな風だ。都会で一人、ファッショナブルな高層ビルでのウェブデザイナーとしての仕事、恵まれた容姿、カッコいい彼氏の存在(秘密だけれど)。

素晴らしいようにも見えるけれど、本当のところはわからない。実は、彼女の生活は不安定そのものだ。めまいと耳鳴りがその典型的症状だ。

ソヨンが、息苦しい世界から、ゆっくりと出口へ向かって行くストーリーが描かれる。出口の先には何があるのか、光なのか暗闇なのか。密やかに繊細に描き出すのは、『ラブ・フィクション』のチョン・ゲス監督。

恋人のジンス(ユ・テオ)は、一緒にいてほしい時にいてくれない。仕事も、契約社員という宙ぶらりん。毎日のように電話をかけてくる母は、自分のことしか頭にない。愚痴と悪口と金の無心の話ばかり。

そんなソヨンを窓の外から見ている青年がいる。高層ビルの窓拭きの仕事をしているグァヌだ。ピエロ風の装いで、ビル内の本屋の入口の上で、ディスプレイ役もしている。彼は、何度か見かけるうちにソヨンの様子が気になってくる。彼も傷を抱えていたので、その傷に誘いかけられたようでもある。

彼の傷は、仲の良かった姉の自殺だ、彼が軍隊にいる間に何があったのか。今はすっかり弱ってしまった父親との二人暮らしだ。

ソヨンに話しかけるチャンスはない。話しかける気もない。窓の外からそっと見守っている。時には、彼女の机の上に小さなプレゼントを置いておく。

まるで守護天使ではないか。ソヨンは彼の存在を知らない。窓の外の彼に気づいて、目が合ったとしても、彼がソヨンの守護天使だとは思いもしない。奥ゆかしいラブストーリーだ。そのうちに、ソヨンの状況はさらに悪化していくのだが。

空気の密度、呼吸のリズムまで伝わってくる映像は、苦しさからゆっくりと深呼吸に至るまでの浄化プロセスのようでもある。ソヨンは一人ぼっちで苦しんでいたけれど、そうではなかった。いつも見守っている存在をそっと思い起こさせてくれる作品でもある。

オライカート昌子

めまい 窓越しの想い
6月4日(金) シネマート新宿ほか 順次公開
(C)2019 FILM DOROTHY All Rights Reserved.
監督・脚本:チョン・ゲス『ラブ・フィクション』
撮影:イ・ソンウン
編集:キム・ヒョンジュ『世宗大王 星を追う者たち』、チェ・ジャヨン
音楽:キム・ドンキ『ときめきプリンセス婚活記』

出演:チョン・ウヒ『哭声/コクソン』『ビューティー・インサイド』
ユ・テオ『LETO -レト-』『権力に告ぐ』
チョン・ジェグァン「サイコだけど大丈夫」

2019年/韓国/114分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:朴理恵
原題:버티고/英題:VERTIGO/レイティング:G
配給:クロックワークス