
悪には吸引力がある。『悪い夏』には、”クズとワルしかでてこない”。そう言われると観たくなる。『悪い夏』の監督は、日本映画界屈指の実力派として評価が高い城定秀夫監督。先立って公開された『嗤う蟲』も作りが上手いうえ、ラストのインパクトも相当なものだった。
映画『悪い夏』は、パズルを上手くはめ込んだような脚本と極上キャストのアンサンブルが絶妙な味わいを感じさせるサスペンスだ。
主演に『スクロール』などの北村匠海。彼が演じる佐々木は、役所の福祉課に勤めるソーシャルワーカー。生活保護関連の仕事にまじめに向き合っていた。彼は最初からワルではないし、クズでもない。ひとつの出会いが彼をクズの世界に巻き込んでいく。
きっかけは「福祉課の職員が生活保護受給者のシングルマザーに肉体関係を迫っているらしい」という相談を受けたこと。同僚の宮田(伊藤万理華)はその受給者に話を聞きに行くのにどうしても同行して欲しいと言い張った。断れないという欠点が、佐々木をクズの集積体の一員への道へ向かわせる。
シングルマザーの愛美を演じているのは『あんのこと』で日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した河合優実。最初のシーンでは、コンビニで買い物をしている。後ろ姿を見ただけで、ハッと目が引き寄せられる。河合優実は、今が旬というだけでなく、俳優として確実に格を上げている。
愛美の友人莉華を演じているのは、箭内夢菜。クズでワルなのは当然だがキュートで憎めない女性に見える。上手さと存在感で、今後が楽しみな俳優になった。裏社会の住人、金本を演じる窪田正孝も殻を破ったように軽々と自然体で演じていて満足度が高い。その他の競演陣の絶妙な力の入れ具合も見事だ。
『悪い夏』はクズとワルしか出てこないけれど、嫌な感じがしない。ワルはワルでもワンランク上質に見える。登場人物がやっていることは見苦しいけれど、映画『悪い夏』には清涼な風が吹いている。これは城定秀夫監督の力だろう。さすがの職人監督だ。
悪い夏
3月20日(木・祝)全国公開
③配給:クロックワークス
©2025映画「悪い夏」製作委員会
キャスト:北村匠海、河合優実、窪田正孝、竹原ピストル、木南晴夏、伊藤万理華、毎熊克哉、箭内夢菜
監督:城定秀夫
原作:染井為人『悪い夏』(角川文庫/KADOKAWA刊) 脚本:向井康介 音楽:遠藤浩二
製作:藤本款 遠藤徹哉 久保田修 エグゼクティブプロデューサー:藤本款 プロデューサー:深瀬和美 秋山智則 近藤紗良
スーパーバイジングプロデューサー:久保田修 共同プロデューサー:姫田伸也
撮影:渡邊雅紀 照明:志村昭裕 録音:秋元大輔 美術・装飾:松塚隆史 小道具:タグチマリナ 編集:平井健一 カラーグレーディング:稲川実希
VFXスーパーバイザー:鹿角剛 整音:伊香真生 音響効果:小山秀雄 スタイリスト:浜辺みさき ヘアメイク:板垣実和 助監督:戸塚寛人 制作担当:相良晶