あらゆるキャラクターを演じ分けるのが俳優の仕事だから、とりたてて騒ぐほどのことではない。そうわかっていながら、カンヌ国際映画祭監督賞受賞作「ドライヴ」のライアン・ゴズリングには目を見張らずにいられない。この緊張感に満ちた横顔を持つ男が「ラースと、その彼女」(2007年)でラブドールを恋人にする特異なひきこもり青年を演じていたなんて、それだけで感動的だ。いや考えてみれば、引きこもり青年が成長して名うてのドライバーになったとしてもおかしくはない。
運転テクニック抜群のドライバー(ライアン・ゴズリング)は、整備工場勤めのかたわら、スタントマンの仕事をこなし、犯罪者を現場から逃走させる裏稼業にも手を染めている。過去を秘めた彼は寡黙で、いつも思いつめたような表情をしている。ある日、彼はアパートの隣室に住む女性アイリーン(キャリー・マリガン)を知り、互いに惹かれあう。だが、彼女の夫が刑務所から出所し、裏社会が彼に触手を伸ばす。ドライバーはアイリーンへの愛ゆえに、彼女の夫に命じられた強盗の手助けを引き受ける。
注目作「SHAME-シェイム-」のキャリー・マリガンが、思わず手を差し伸べたくなる若い人妻に扮してまばゆい。彼女に恋したドライバーにとってはまさに“運命の女”で、彼女が無垢で可憐であればあるほど、彼は危機に陥る定めである。二人が惹かれあうさまを追う映像は静かでなめらかで説得力にあふれ、久しぶりに上質なラブシーンを見たようで心が潤う。そして裏切りと残酷な殺害シーンが連続する終盤に手に汗握りながら、真のロマンティシズムは命懸けのところに生じるのだといまさらながらに思い知る。そういう境地に達することのできない凡人のためにこの映画は作られたのだ。
さて、謎めいたラストシーンにあなたは何を想うだろう。もしかしたら彼は既にこの世の人間ではなく、さらに地獄へと向かうのだろうか。あるいは、彼はようやく地獄めぐりを終えて天国へと飛翔するのだろうか。それとも……。何も語らないドライバーの横顔と車の轍が目の底に焼きついて離れない。
(内海陽子)
ドライヴ
2011年 アメリカ映画/監督:ニコラス・ウィンディング・レフン/出演:ライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン、ロン・パールマン、オスカー・アイザック、アルバート・ブルックス、クリスティナ・ヘンドリックス、ブライアン・クランストンほか/R15+/配給:クロックワークス
3月31日(土)より、新宿バルト9他全国ロードショー
オフィシャルサイト http://drive-movie.jp/