『私達が光と思うすべて』映画レビュー 無常な人生の特別な香り

映画祭で見る映画は格別だ。その映画は公開されるかもしれない、されないかもしれない。見ることができるのはこの一回限りかもしれない。そんなはかなさと、上映が許されたレベルのクオリティが入り混じった濃厚な鑑賞空間がある。『私達が光と思うすべて』は、公開映画だが、同じような特別感を感じた、各国の映画祭を席捲し、インド映画として初のカンヌ映画祭グランプリ受賞作品となった。

人が渦巻くムンバイの街の姿と通勤列車内からスタート。つくりものめいたところはなく、ドキュメンタリーのような本物の実感がある。やがて、一人の女性に向けてカメラは固定される。ムンバイで看護婦として働くプラバだ。同じ病院の看護婦の後輩アヌと家をシェアしている。ふたりとも村から都会へとやってきていた。

過酷でわびしい都会の生活だが、プラバは正しく真面目に向き合ってきた。若いアヌの方はそうはいかない。欲しいものがある。恋人とのひとときがもっと欲しい。アヌは許されることはありえない恋をしていた。病院のキッチンで働くパルヴァディは、高層ビル建築のために自宅から立ち退きを迫られている。

監督は、ムンバイ出身のパヤル・カパーリヤー。今まで長編映画を撮ったことはなく、ドキュメンタリー映画を撮ってきた。だからこの感触なのだ。本物の実感の上に、イマジネーションを掻き立てる空気感がほんのりと載っている。

リアルな通常シーンの合間に、ハッとさせられる場面が散りばめられている。プラバが同僚の医師から送られる詩、緑と海の村の古い家でお酒を飲んで踊る二人の女性。洞窟の彫像など印象が際立つシーンが挟まれてドリーミィな感触を与える。

最初の一連のセリフも味わい深い。感嘆してしまうほど好きなシーンは最後だ。なんの特別なところもない市井の人々の姿が、いかに特別なのかを思い知らされた一作。

(オライカート昌子)

私たちが光と想うすべて
© PETIT CHAOS – CHALK & CHEESE FILMS – BALDR FILM – LES FILMS FAUVES – ARTE FRANCE CINÉMA –
2024
7/25(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
第77回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
第82回ゴールデン・グローブ賞 最優秀監督賞・最優秀⾮英語映画賞ノミネート
第96回ナショナル・ボード・オブ・レビュー 外国語映画トップ5
第78回英国アカデミー賞 ⾮英語映画賞ノミネート
第18回アジア・フィルム・アワード 最優秀作品賞受賞
第59回全⽶映画批評家協会賞 監督賞 外国語映画賞受賞
第90回ニューヨーク映画批評家協会賞 外国語映画賞受賞
第50回ロサンゼルス映画批評家協会賞 外国語映画賞 受賞
ほかノミネート、受賞多数
監督・脚本:パヤル・カパーリヤー
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム
原題:All We Imagine as Light/2024年/フランス、インド、オランダ、ルクセンブルク/マラヤーラム語、ヒンデ
ィー語/118分/1.66:1/字幕:藤井美佳/配給:セテラ・インターナショナル PG12
■公式サイト watahika.com
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