『RUN/ラン』映画レビュー(感想)

王道サスペンスでも、テーマはいろいろある。『RUN/ラン』の場合は、一見、親子の葛藤。毒親との壮絶な戦いと言ってもいい。

優しい、子ども思いの母。でも実は…というストーリー。読み解き方によっては、切実なものになる。執着だ。それがわかると、見ている自分に跳ね返って、主題はより人間的になる。

郊外の一軒家に母と二人暮らしのクロエは、大学入試の結果待ち。新しい生活の期待でワクワクしている。車いす生活だ。他に病気も持っているが、バイタリティと知性と好奇心は誰にも負けない。母、ダイアンは、生活のほぼすべてをクロエに捧げている。

ある日、買い物の袋からチョコレートを探そうとしたクロエは、不審なものを目にする。薬のボトルだ。ボトルには、名前が入っているけれど、それは、クロエ用ではなく、ダイアン用になっていた。母の薬? 母は病気なの? 何の薬? 疑問に駆られたクロエは、答えを突き止めようとする。そのうちに、次から次へと、疑惑がとめどなく生まれてくる。

『search/サーチ』で名を上げたアニーシュ・チャガンティ監督作品だ。『search/サーチ』は、突然姿を消した娘を、父親が探していくストーリーだった。今まで知らなかった娘の生活。探索していく過程は、スリリングで胸も傷んだ。『RUN/ラン』は、その裏返しの物語だ。

『search/サーチ』は、パソコン画面のみで表現されていた。制約された描き方あえて使い、背後の現実的世界が浮かび上がるという効果を狙っていた。『RUN/ラン』は、主人公が、車いすに乗り、定期的に薬を飲まなければならないという制約がある。

チャガンティ監督は、限界ゲームが好きなのかもしれない。それは映画を面白くもする。同時に、人間が生きていく上で、束縛や制限は、当たり前にあることも示す。パソコンスクリーンのように、限られた視野で物事を見る場合も多い。鎖につながれているように、常識や信念に意識しないまま左右されている。

夢や欲望に駆られること。思うがままにならない家族や親子の関係。変化していく波に乗れない、今までの生活に縛り付けられて、離れられない、そんな束縛。つまり、執着。この映画は、人の暗い闇とそれと戦う不屈さをシンプルなサスペンスで提示してくれている。

『RUN/ラン』は、あるディズニープリンセス映画とそっくりだ。それが何かはネタバレになるので明かせないけれど、見ればすぐわかる。

オライカート昌子

RUN/ラン
6月18日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋他全国ロードショー
© 2020 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
配給・宣伝:キノフィルムズ
監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ
製作・脚本:セヴ・オハニアン
出演:サラ・ポールソン、キーラ・アレン
2020/英語/アメリカ/90分/5.1ch/カラー/スコープ/原題:RUN/G/字幕翻訳:高山舞子
提供:木下グループ