『近畿地方のある場所について』映画レビュー ノスタルジックな恐怖図鑑

映画『近畿地方のある場所について』 の前半は、凄まじい恐怖が連続する。ミステリーに彩られながら、次から次へと畳み掛けてくる。恐怖は一種類だけではなく、前代未聞の質で大量攻撃していくる。美術の仕上がり、瞬間ごとの現実味が桁違い。『ノロイ』、『サユリ』の白石晃士監督

『近畿地方のある場所について』 の原作はウェブカクヨムから文庫化、ベストセラーに躍り出た。原作者の背筋氏の元には映画化プレゼンがが相次いだという。その中で今回の映画化が決定したのは、白石監督が引き受けてくれた点。背筋氏は、白石晃士監督の『ノロイ』の大ファンであり、ホラー作品を手掛ける原動力になったという。

ある日オカルト雑誌の編集者が失踪した。校了前の特集記事の原稿とともに。存続の危機にあった雑誌の発行のためには、編集者の小沢(赤楚衛二)とはオカルトライターの瀬野千紘(菅野美穂)の二人で、その編集者と原稿を見つけるしかない。あるいは、残された資料を確認して新たに特集記事を作り上げなくてはならない。

恐怖は、雑多な資料を確認していく作業でまず生まれてくる。日本だとまだエンタメとしては市民権をそこまで得られていないモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)方式を使用。雑誌記事、古い情報番組のビデオテープ、youtubeチャンネルの映像など、丁寧さと緻密さが極めてリアル。雑多な情報が一つのルートに収束し、謎の解明につながる過程で新たな物語が浮かび上がってくる。

モキュメンタリーパートは、昭和から令和にかけての年代を横断しつつ、実感にまで迫ってくるところに『近畿地方のある場所について』 の凄さがある。その肌触りは、いつのまにか強烈な懐かしさとなって怖い気持ちをしのいでしまったところが意外だった。怖いには怖いけれど、懐かしい。ホラーは映画の可能性の豊穣さを伝えるジャンル。ジャパニーズホラーはまさに、その最先端を走っている。

近畿地方のある場所について
8月8日 (金) 全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
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