ウディ・アレンのお気に入りにユダヤ人芸術家ベン・シャーンがいる。
1898年生まれのベン・シャーンは、
「人間が人間に対して不条理な暴力をさまざまな場面でふるった
20世紀という時代に生き、その現実を直視し、
真実の姿を描き出す証言者」である。
※ 「ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト」展、
公式カタログより
「20世紀の負の遺産は今もなお解決からはほど遠く、
私たちは、対立、差別、貧困、暴力を根絶できないままだ」と続く。
ベン・シャーンは、人間味あふれる眼差しで、
世界の苦しみや喜びを丸ごと受容したひとりの作家として
今回ご紹介する映画『死刑台のメロディ』の題材
「サッコとヴァンゼッティ事件」を描いている。
当時、その裁判の行く末、判決が巷の大きな話題となった。
1920年、イタリア移民への差別と労働問題が叫ばれていたボストン。
靴職人のニコラ・サッコと魚行商人のバルトロメオ・ヴェンゼッティは、
運悪く護身用のピストルを携帯していたことで警察に逮捕される。
全くの事実無根にもかかわらず、
イタリア移民のアナーキストという理由だけで、
ふたりは身に覚えのない製靴会社の現金強盗殺人事件の容疑者にされてしまう。
しかし、裁判での証言・証拠はことごとく、
彼らが犯人であることを示していた。
やがて彼らに死刑の判決が下る。
1920年代のアメリカで実際に起こった
悪名高き冤罪事件「サッコとヴァンゼッティ事件」。
その人種的、思想的差別と偏見に満ちた裁判の一部始終を、
ジュリアーノ・モンタルド監督が冷徹に映画化。
その『死刑台のメロディ』が4Kリマスターで蘇った。
冤罪を語る映画としては『ショーシャンクの空に』や
『グリーンマイル』が有名だが、
60年以上も前に『死刑台のメロディ』という名作もあった。
上記２作はファンタジー要素もあるが、『死刑台のメロディ』には
実話の冤罪事件の映画化としての確固たるメッセージがある。
制作国はイタリア。
文字どおり、イタリア・ネオリアリズムの血を受け継ぐ、
社会問題を題材にとった堂々たる作風だ。
オールドファンには、ジョーン・バエズの主題歌「勝利への讃歌」と
リカルド・クッチョーラの名演が忘れがたい映画だろう。
エンニオ・モリコーネの音楽も当時話題を呼んだ。
昨年劇場公開された
ジュゼッペ・トルナトーレ監督によるドキュメンタリー映画
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』での大きな感動と称賛を経て、
いま再びモリコーネ・リスペクト、再評価の動きが高まっている中での
再上映でもある。
この『死刑台のメロディ』(71)の4Kリマスター版と、
今回待望の日本初公開となる『ラ・カリファ』(70)の２作品を、
『永遠のフィルム・マエストロ エンニオ・モリコーネ特選上映
Morricone Special Screening×2』と題して上映される。
『ラ・カリファ』の情報は以下に記す。
モリコーネの甘美なメロディが心に沁みる逸品。
最盛期前夜のロミー・シュナイダーが許されぬ恋におちる女性を
体当たりで演じた社会派メロドラマで、今回が待望の日本初公開となる。
32歳の女盛りを迎えた凛々しいロミー・シュナイダーと、
『Mr.レディ Mr.マダム』シリーズのウーゴ・トニャッツィが禁断の恋を演じる。
本作のテーマ曲は、数あるモリコーネのスコアの中でも
人気の高い曲として知られているが、映画自体は日本では劇場未公開だった。
「死刑台のメロディ」
4/19(金)より新宿武蔵野館ほかで公開
監督・脚本:ジュリアーノ・モンタルド
撮影：シルヴァーノ・イッポリティ
音楽:エンニオ・モリコーネ
歌:ジョーン・バエズ
出演:ジャン・マリア・ヴォロンテ、リカルド・クッチョーラ、ミロ・オーシャ、
シリル・キューザック、ロザンナ・フラテッロ
★1971年カンヌ国際映画祭 男優賞受賞（リカルド・クッチョーラ）
1971年／イタリア／ドラマ／原題:SACCO E VANZETTI／125分／カラー／
ビスタサイズ／DCP／英語モノラル
©UNIDIS JOLLY FILM
「ラ・カリファ」
4/19(金)より新宿武蔵野館ほかで公開
監督・脚本:アルベルト・ベヴィラクア
撮影：ロベルト・ジェラルディ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演：ロミー・シュナイダー、ウーゴ・トニャッツィ、
マリーナ・ベルティ、マッシモ・ファネッリ、ロベルト・ビサッコ
★ 1971年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品
★1971年度デヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主演男優賞受賞
（ウーゴ・トニャッツィ）
1970年／イタリア・フランス／ドラマ／原題:LA CALIFFA／９１分／
カラー／ビスタサイズ／DCP／イタリア語モノラル
©1970 RTI
