『プリシラ』映画レビュー ひたすらまぶしい魔法の時間

『プリシラ』が、思い出させてくれるのは、柔らかくて、強情。自信はあるけど、その自信には根拠がない。そんな若き日々だ。その愛おしい時代が、スクリーンの中から飛び出してくる。

恋に落ちたエルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)とプリシラ(ケイリー・スピーニー)の関係は、なだらかに、不穏を交えながら変化していく。不穏の描き方も、なだらかで、お洒落。ソフィア・コッポラ監督らしさが花開いている。

エルヴィスの自宅、アメリカ、テキサス、グレイスランドを舞台に、映画を彩るのは60年代から80年代の絢爛で繊細な色使いのファッション、ヘアメイク。まるで当時のセレブの世界にタイムトリップしたように楽しい。当時のエルヴィスとプリシラの写真をそのまま再現しているのにも注目。

主人公のプリシラが、スーパースターのエルヴィス・プレスリーと出会ったのは、14歳の時。エルヴィスは、誰もが憧れる輝けるスターだった。

出会った当初のプリシラの気持ちが、ズームアップして心に届いてくる。憧れの存在だったエルヴィスが、自分に特別な関心を抱いてくれる喜び。彼女は両親の懸念を振りほどき、グレイスランドに飛び込んでいく。

エルヴィスのプリシラに対する優しさと心遣いも十分以上だ。だが、どんな関係もそうであるように、エルヴィスとプリシラの関係も、成長し開花し、慣れてしまい特別感を失う。

憧れと依存の中にいたプリシラが、少しづつ自分を見つけ、自分が望んでいるものをつかんでいく過程でもある。

映画『プリシラ』は、女性から見た男性、男性から見た女性 それを的確に表現しているところも魅力だ。

結婚、出産もひとつのきっかけになって、女性は、どんどん先へ進んでいく。エルヴィスもそうだけれど、いつまでも男の子気分が優勢な男性もいる。時には、相手の変化にも気づかない。もちろんそれは男性に限ったことではないのだけれど。

エルヴィスには、母を失った心の空欄を埋めてくれる存在が必要だった。いつもそばにいてくれて、話を聞いてくれて、自分の好みを優先してくれる美しい女性。でも、それ以上に大切なものがあるのが、社会で生きていくということ。二人の足並みがずれていく。

それにしても、映画前半の、愛する者同士、仲間同士が共有する輝く魔法の時間、遊びの時間が、ひたすらまぶしい。それは遠い記憶へ消えていくことなく、いつまでもプリシラの中に残っているはずだ。輝けるエルヴィス・プレスリーの記憶とともに。ソフィア・コッポラ監督は、愛おしい時間を描くのに格別な才能を発揮する。

(オライカート昌子)

プリシラ
2024年4月12日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開
配給:ギャガ
©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023
監督・脚本:ソフィア・コッポラ(『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、『マリー・アントワネット』(06)
出演:ケイリー・スピーニー(『パシフィック・リム: アップライジング』(18)、『ビリーブ未来への大逆転』(18))
ジェイコブ・エロルディ(『キスから始まるものがたり』(18,20,21)「ユーフォリア/EUPHORIA」(TV・19~))