『12日の殺人』映画レビュー 世界を見る目を変えるラストの跳躍度

映画『12日の殺人』について紹介しているコトバを見ると、怖くて震撼しそうだ。女性の殺人方法の問題もあるし、未解決事件という言葉も立ち塞がる。女性クララの異性関係についてのコメントも目に入る。

コトバがイメージを作るとすれば、映画を見る前なら心躍る体験になるとは思えない。暗くて重くてまじめなだけの映画なのか。でもそれだけでは、ここまで支持されることもないだろう。『12日の殺人』は、2023年・第48回セザール賞で作品賞・監督賞・助演男優賞・有望若手男優賞・脚色賞・音響賞を受賞。


『12日の殺人』は、言葉と先入観のイメージを裏切る要素の比重が大きいのだ。まず、ポスターを見てほしい。明るい赤の服を着た美しいクララ。強く惹かれる。

クララは、たった21歳でこの世を去った。『12日の殺人』の軸は、殺人事件を捜査すること。そこからうっすら浮かび上がるクララの姿は、予想を高く裏切っていく。

『12日の殺人』は、クララという人物と事件の捜査を描く映画なだけではない。警察の人間関係、それ以外の人間関係、そしてすべてが時間の経過とともに変化していく様相を描いている。世界や人生や心理が広がっていく時間と空間の映画なのだ。

映画のリズムと風情の印象も大きい。悲しみや衝撃がないとは言えないが、空気感に息をする余裕がある。クララの事件を家族に伝えるシーンにしてもそうなのだ。悲しみに、軽やかさの粒をまぶす。題材的には、作る側の難易度は高い。それを作り上げたドミニク・モル監督にはお手上げだ。

エネルギッシュで、自分の求めているものに忠実だったクララ。その存在が、愛おしくてたまらなくなった。そしてその愛おしさは、捜査に携わった面々、さらにあらゆる存在へと広がっていく。

そしてラスト。まさに跳躍。未解決事件なのか、そうでないのか、そこまで事件に引っ張られた挙句、別の世界への扉が開かれたようである。
(オライカート昌子)

12日の殺人
2024年3月15日(金)
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
全国ロードショー!
(C)2022 – Haut et Court – Versus Production – Auvergne-Rhone-Alpes Cinem2022年製作/121分/G/フランス
原題:La nuit du 12
配給:STAR CHANNEL MOVIES
監督:ドミニク・モル
脚本:ドミニク・モル/ジル・マルシャン
原案:ポーリーヌ・ゲナ作「18.3. Une année passée à la PJ」
出演:バスティアン・ブイヨン、ブーリ・ランネール、テオ・チョルビ、ヨハン・ディオネ、ティヴー・エヴェラー、ポーリーヌ・セリエ、ルーラ・コットン・フラピ