『ミーツ・ザ・ワールド』映画レビュー

『ミーツ・ザ・ワールド』は、のどごしのいいサイダーを飲むときのように、滑らかさを感じる映画だ。どこをとっても詰まるところがなく、スムースで心地よい。主人公の状況とは関係なく、この映画の中に入りたい、終わらないで欲しい。彼らの一部になりたいと思ってしまうぐらいだった。

主演に杉咲花。『市子』では強くて悲しい女性、『片思い世界』ではしっかり者の可愛い姉キャラが印象深かった。どんな役であろうと、闊達な自由度で魂まで演じ切る実力。『ミーツ・ザ・ワールド』の由嘉里役は、映画を観ているのを忘れさせてくれるほどのレベルだった。由嘉里は、会社と趣味(押し活)と親との生活を行ったり来たりするだけで、これでいいのだろうかと思い始めた27歳。同じことばかりやっていれば、同じ思考の堂々巡り。

そんな由嘉里の生活に変化が訪れる。それはライ(南琴奈)との出会いだった。歌舞伎町の路上で、初の合コンで飲み過ぎて、ぐったりしていたところ、ライが、「大丈夫?」と声をかけてきた。流れに任せてライの家に行き、成り行きでライの部屋に転がり込んだ。そこからライとの共同生活が始まった。由嘉里はライの行きつけの店へ一緒に行くようになり、ライの友人たちとも知り合いになる。それは由嘉里を変えたのだろうか。彼女は変わりたいと思い、ライも変えたいと思う。人に強いることは、自分も強いることなのに。

全体的に優しい目線で作られているため、由嘉里の趣味への傾倒、主張などの強い気持ちがスクリーンから飛び出してくる。ありのまま過ぎるので、自分の一部を見せられているようでもある。気恥ずかしい感じはなく、むしろさっぱりした気分になる。その辺りの絶妙な加減が『ミーツ・ザ・ワールド』のポイントだ。

原作は、、第35回柴田錬三郎賞を受賞した金原ひとみの同名小説。監督は、『リライト』でもさわやかな風を感じさせた松居大悟氏。撮影は作品の舞台の歌舞伎町で敢行。登場人物たちも個性派実力派が並ぶ。ライを演じるのはオーデションで選ばれた南琴奈。既婚者で不特定多数から愛されたいホスト・アサヒ役には、映画『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』で第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した板垣李光人。毒舌な作家・ユキ役には、蒼井優。BAR「寂寥」店主・オシン役を、渋川清彦が演じている。

(オライカート昌子)

ミーツ・ザ・ワールド
全国公開中
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
配給: クロックワークス
出演:杉咲花
南琴奈 板垣李光人
くるま(令和ロマン) 加藤千尋 和田光沙 安藤裕子 中山祐一朗 佐藤寛太 
渋川清彦 筒井真理子 / 蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」) 村瀬歩 坂田将吾 阿座上洋平 田丸篤志
監督:松居大悟 
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫 刊)
脚本:國吉咲貴 松居大悟 音楽:クリープハイプ
主題歌:クリープハイプ「だからなんだって話」(ユニバーサルシグマ)
2025年/日本/カラー/アカデミー(1.37:1)/5.1ch/126分/G
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