『PERFECT DAYS』映画レビュー

この究極の平穏を味わう幸せ
美しい映画である。一度見たら、その残り香は永遠に残りそうだ。忘れるかもしれないけれど、思い出そうとすれば、『PERFECT DAYS』の平穏で豊かさに満ちた世界を心の中で広げることができる。そう思い、ホッとする。

東京渋谷の公衆トイレの清掃員の日常を描いた映画だと聞けば、そこまで美しい映画だとは、思えないかもしれない。その世界に馴染むまでは。それまで、何度もルーティンシーンを見ることになる。その同じ行動を刻むリズムは、いつの間にか喜びの習慣と化し、何度でも見たいと思ってしまう。

そのリズムは、主人公平山(役所広司)と私が同化していく過程でもある。最初は見知らぬ男だ。彼の生活をのぞき見していくうちに、彼のほほえみは、私の微笑となり、彼が見るものを私も見て、同じ感情にとらわれる。滅多にないけれど、彼がイラっとすれば、こっちもイラっとして、なんとかならないの? とヤキモキさせられる。感情の細やかな流れが、いつしかトレースされていく心地良さ。

彼のやること、出会うこと、変化することしないこと、なにげない日常のなかにあるドラマは、どんな大掛かりな映画アトラクションより、ワクワクハラハラさせられる、そんな面白さも同時に描かれているところが『PERFECT DAYS』の大きな特徴だ。

ヴィム・ヴェンダース監督は、日本・東京を舞台にして、そこまでの映画を作ってしまった。静かな落ち着きがある澄んだ街。今まで見たことがない東京なのだけれど、我々が知っている東京と繋がっている。『PERFECT DAYS』の東京は、作り上げる過程で、唯一無二の世界となった。映画というのは、底知れない奥深さの可能性があるものなのだろう。

東京の美しさもさることながら、登場人物の際立つ魅力も相当なものだ。特に女性。昔の映画女優のように自信とゆるぎなさが漂っている。媚びのなさも清々しい。『パリ、テキサス』でナスターシャ・キンスキーを永遠のアイコンにしてしまったヴィム・ヴェンダース監督の審美眼の賜物と思える。音楽、本、写真、陽光、樹木。そのすべてが調和しつつ優美に世界を作り上げている。

平山を取り巻く世界に浸る心地良さは、自分の世界にその完璧さを取り込む方法でもある。2023年の年末にこの映画に出会えた喜びをたくさんの人が味わえますように。

(オライカート昌子)

PERFECT DAYS
12 月 22 日(金) より TOHO シネマズ シャンテほか全国ロ
ードショー!
配給:ビターズ・エンド
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124 分
ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.
perfectdays-movie.jp