『古の王子と3つの花』映画レビュー

美しいものを見ると、心に花が咲く。活力を感じ、自分の世界がグーンと広くなる。映画で究極の美に出会うことは、あるようで滅多にない。苦しいこと、不安、恐怖、謎。それが心を引っ張るから、そういう映画が多くなる。

ここに一つ、極めて美しい世界がある。『古の王子と3つの花』だ。アニメーション映画だからと言って、子どもだけのものではない。大人の心に花を咲かせ、美しい世界へと誘う強い意志を感じる映画だ。

描かれている3つのストーリーは、『ファラオ』、『美しき野生児』、『バラの王女と揚げ菓子の王子』。いずれも王子と王女が登場。素朴で優しさと残酷に満ちたストーリーも共通している。そして傑出した映像美は心に残る。

『ファラオ』は、ルーブル美術館とコラボレーションを行って生まれた映画。古代エジプトの壁画を思わせる抽象化された映像と均整の取れた動き、鮮やかな色彩に目が嫌でも喜んでしまいそうだ。恋人と結婚のために、古代エジプト・クシュ王国の王子が、上下エジプト戦を統一し、ファラオとなることを目指す。どうやって、彼はファラオとなったのか。

2番目の作品は『美しき野生児』。中世の城が舞台。人物は影絵で、背景は独立している。その造形の見事さにハッとさせられる。城主は息子にも理不尽で厳しい。何かあると、外へ行けと言う。外でボール遊びをしていた少年は、ひょんなことで、牢に幽閉されている男と、心を通わせることになる。

3番目は『バラの王女と揚げ菓子の王子』。18世紀オスマン・トルコ帝国の王子が、敵に攻め込まれ、逃げ出したあげく、揚げ菓子屋になるストーリー。最後にして最高に美しい映像だ。

監督は、「キリクと魔女」「ディリリとパリの時間旅行」などのアニメーション監督ミッシェル・オスロ。暑さも、もやもやも、疲れも一度に吹き飛ぶ至福の映像を堪能あれ。

(オライカート昌子)
古の王子と3つの花
7月21日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
配給: チャイルド・フィルム
©2022 Nord-Ouest Films-StudioO – Les Productions du Ch’timi – Musée du Louvre – Artémis Productions
監督・脚本:ミッシェル・オスロ (『ディリリとパリの時間旅行』『キリクと魔女』)
声の出演:オスカル・ルサージュ クレール・ドゥ・ラリュドゥカン(コメディー・フランセーズ) アイサ・マイガ 
2022年/フランス・ベルギー映画/カラー/1.89:1/5.1ch/83分 原題:Le Pharaon, le Sauvage et la Princesse 日本語字幕:橋本裕充 配給:チャイルド・フィルム 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ  https://child-film.com/inishie 
©2022 Nord-Ouest Films-StudioO – Les Productions du Ch’timi – Musée du Louvre – Artémis Productions