『Pearl パール』映画レビュー

愛らしく、美しく若い女性パール(ミア・ゴス)が、シリアルキラーに変化していく。心理の奥に閉じ込められていた残酷な素顔が表面に浮上していくかのように。映画『Pearl パール』は、そのプロセスに強烈に惹きつけられる。

時は、第1次世界大戦中、スペイン風邪の脅威が訪れてきた1918年。場所は人里離れた田舎の農家。その時代と場所は、単色で暗いイメージを思い起こすけれど、とんでもない。最初から、スタイリッシュで色彩豊かな世界が飛び出してくる。

パールは、母の古びた美しい服をまとい、鏡の前でうっとりとしている。音楽もハリウッドが一番華やかなころを思い起こさせる。おっとりとした夢見がちな世界に誘うかのようだ。

A24製作のホラーらしく、ミスマッチな個性と調和が重なり合い、独特のセンスで圧倒してくる。普通の殺人鬼映画とは毛色が違うのが魅力的だ。

パールは、世界中で全ての人が彼女の名前を知るほど有名になるのを欲している。映画のダンサーとして、スクリーンの中央で踊ることも。だが、厳格な母と、第一次大戦で毒ガスの犠牲になったのか身体が不自由な父と、辺鄙な田舎で、家畜の世話をする毎日を送っている。パールも結婚しているが、夫は戦場だ。

そんなパールが、殺人を重ねるようになっていく。丁寧な描写で心理も細やかでリアルだ。自分の中のパールの部分が刺激されるような感覚だ。

犯罪のプロファイリングによると、女性のシリアルキラーは滅多にいない。理由なき犯罪は起こさない、女性は、無駄なことはしない実用重視な生き物だ。

だからなのか、パールの殺人には理由がある。そしてその理由は、共感すら呼び起こす。ごく普通のものだからだ。ただ、一回やるとどんどんやってしまう。重ねられる殺人のスリルとリズムは、後半の見どころに向かって盛り上がっていく。

シリアルキラーに変貌したとはいえ、パールは、弱く孤独だ。満たされない欲求もある。実は、そんな女性は、まさに殺人者に狙われるタイプだ。そんな被害者タイプの女性が、複数殺人を行っていく。その逆転劇が、『Pearl パール』の面白さの醍醐味だ。

逆転と言えば、農場やパールを取り巻く世界が、色に溢れた豊かな世界なのに比べ、彼女が憧れる映画の世界は、モノクロで薄暗く、貧弱に描かれている。彼女が望む世界の空虚感が浮かび上がる。

さて、後半。彼女が、義理の姉妹に向かって話すシーンの流れは、その前のオーデションシーンから続いての最大の見せ場だ。だが、その後にも、一つ、見どころが待っている。エンドロールのシーンだ。

そのエンドロールこそが、前作『X エックス』へと向かう、謎を解き明かす場面だ。主演のミア・ゴスの真剣な体当たり演技が、本物の力で圧倒してくる。

(オライカート昌子)

Pearl パール
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2022年製作/102分/R15+/アメリカ
原題:Pearl
配給:ハピネットファントム・スタジオ