Lava Light。

70年代、サイケブームの中、大人気となったラバ・ライト。

電球の熱で透明な菅の中のスライム状ワックスがLava(溶岩)のように

ふわふわと漂う不思議なインテリア・ランプの名称だ。

そのスライムが、ゆっくりと分裂して離れたり、

しばらく眺めていると元のかたまりに戻ったりもする。

これを部屋で眺めながらキング・クリムゾンの曲なんか聴いていると

まるでドラッグをやっているかのような幻覚に襲われたものだ。

もちろんドラッグは御法度(笑)だが、

映画『WAVES/ウェイブス』は、合法ドラッグでトリップ(笑)できる。

毎年、アカデミー賞を占う上で最も注目されるトロント国際映画祭では

史上最大の歓声で、記録的スタンディング・オベーションを受けた、とある。

きっと、観客はトランス状態だったろう。

「一生に一度の傑作!」、「ノックアウト!」、「心が引き裂かれる作品」、

「息をのむ美しさ」、「今の瞬間を映し出した作品」と、

海外の有力誌はこぞって年間トップ10映画に選出している。

あのカルト的ホラー『イット・カムズ・アット・ナイト』(17)の

トレイ・エドワード・シュルツが監督・脚本を手がけた人間ドラマ。

ある夜を境に幸せな日常を失った兄妹の姿を通し、

挫折、恋愛、親子の問題、そして絆といった普遍テーマを描く映画である。

フロリダで暮らす高校生のタイラーは、

成績優秀でレスリング部のスター選手。さらに美しい白人の恋人もいる。

厳格な父との間に距離を感じながらも、何不自由のない毎日を送っていた。

しかし肩の負傷により大切な試合への出場を禁じられ、

追い打ちをかけるように恋人の妊娠が判明する。

次第に人生の歯車が狂い始め、やがて決定的な悲劇が起こる。

1年後、心を閉ざした妹エミリーの前に、

すべての事情を知りながらも彼女に好意を寄せる白人のルークが現れるが。。。

流れるような2つのパートで描かれた兄妹の物語に、

個々の心情を補うかのように31曲のナンバーがピタリと寄り添う。

カニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマー、アニマル・コレクティヴに

レディオ・ヘッド。果てはエイミー・ワインハウスまで降臨する。

そこに、あのラバ・ライト風スライム幻影が重なるのだ。

赤と青と黄のワックス・ライトが混じっては消えていく。

この3つの彩色は、綺麗なトライアングルを求めながら

ぎりぎりバランスを保っているように見えるが、やがて歪(いびつ)となり、

登場人物たちと一緒に私たちも奈落に落ちていくようで堪らない。

パトカーの赤と青のライトが交差する物語の節目を見よ。

お腹の中で胎児が祈るように微笑みかける赤と黄色のイメージも忘れがたい。

やがて3色のトライアングルはメビウスの輪のように変形していく。

思い起こせば、制作会社A24には、『ムーンライト』(16)という

フロリダの黒人社会をベースにした魂の救済劇もあったっけ。

だから、同じA24で撮られた『WAVES/ウェイブス』は、

『ムーンライト』の従兄弟のような映画なのだ。

この映画を見てから、どこに行くにも映画のラストを飾る

アラバマ・シェイスクの「サウンド・アンド・カラー」を聞いている。

文字どおり31曲目に流れる「サウンド・アンド・カラー」!

映画を見た後に、ひとり真っ暗な部屋でこの曲を聞いてごらんよ。

まるで自分の身体、魂までが、ラバ・ライトのスライムのように

暗闇を浮遊する感覚でトリップできるから。

ほーら、『WAVES/ウェイブス』はドラッグ映画にちがいない。

自分を見つめ直してまた見たくなる。クセになる。

ご注意あれ。

(武茂孝志)

『WAVES/ウェイブス』

7月10日(金)よりロードショー

監督&脚本:トレイ・エドワード・シュルツ

撮影:ドリュー・ダニエルズ『イット・カムズ・アット・ナイト』ほか

美術:エリオット・ホステッター『ネオン・デーモン』ほか

音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス

   『ドラゴン・タトゥーの女』、『ソーシャル・ネットワーク』ほか

キャスト

ケルヴィン・ハリソン・ジュニア『イット・カムズ・アット・ナイト』ほか

テイラー・ラッセル『ロスト・イン・スペース』(Netflix)ほか

スターリング・K・ブラウン『ブラックパンサー』ほか

レネー・エリス・ゴールズベリー『オルタード・カーボン』(Netflix)ほか

ルーカス・ヘッジズ『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ほか

アレクサ・デミー『The OA』(Netflix)ほか

2019年製作/135分/PG12/アメリカ

原題:Waves

配給:ファントム・フィルム

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