『トリツカレ男』解説
いしいしんじによる小説「トリツカレ男」(新潮文庫刊)がアニメ映画化。何かに夢中になると、ほかのことは一切見えなくなってしまう“トリツカレ男”の主人公ジュゼッペの声を佐野晶哉(Aぇ! group)、ヒロイン・ペチカの声を上白石萌歌が担当し、Awesome City Clubのatagiによる楽曲をふたりが歌い上げる! せつなく眩しい、ラブストーリー・ミュージカルが誕生!
『トリツカレ男』映画レビュー 好きなものがあることのとてつもないエネルギー

『トリツカレ男』の取り憑かれということばには、負のイメージがあるけれど、『トリツカレ男』の主人公ジュゼッペは、負を一掃するような勢いで好きなものを取り込んでいく。そうすると、あら不思議、取り憑かれるという言葉が反転して明るさが溢れ出してくる。実に気持ちいい。ジュゼッペが取り付くものは、負から正され、世界は好きなものがある喜び色で染まっていく。
ジュゼッペがとりつかれるのは、歌から探偵業、眼鏡から昆虫採集、三段跳びまで。ジュゼッペの瞳に光が宿り、なにかが心を鷲づかみにすると最後、彼の一日は、四六時中そのことだらけ。そんな彼を町の人々は、「トリツカレ男」と呼びつつも、微笑ましく見届けている。
そんな彼は、ある日ネズミのシエロと友だちにもなった。ジュゼッペの好きなものにとことん集中する能力からしたら、ネズミ語を理解するのもお手の物。その後、ジュゼッペがトリツカレたのは、公園で風船を売っていた女性、ペチカだった。
シエロの助けもあり、ジュゼッペはペチカと親しくなることができた。だが、そこで難問が立ちはだかる。ペチカのほほえみの影にある一瞬の曇をジュゼッペは見逃さなかった。ペチカに青空のような曇りのない微笑みは取り戻すことができるのだろうか。映画『トリツカレ男』には、好きだという感情の背後のエネルギーが、ふんだんに描かれていて、特に「好き」な気持ちが生み出す。好きな対象に対する集中力と観察眼にスポットを当てているところにも注目だ。
ジュゼッペもペチカもシセロもアイスホッケーのコーチも、忘れがたい優しさで描かれているけれど、心を奪われたのはギャングのツイスト親分だった。こんな親分だったら会ってみたい。
ミュージカルなので、映画は伸びやかで楽しい映像と、美しい音色で満たされている。好きな気持ちはこんなにも人を強くし、能力を高めてくれるかを再確認させてくれる。
トリツカレ男
©2001 いしいしんじ/新潮社 ©2025映画「トリツカレ男」製作委員会
公開中
配給: バンダイナムコフィルムワークス
キャスト :佐野晶哉(Aぇ! group)、上白石萌歌、柿澤勇人、山本高広、森川智之
スタッフ
原作:いしいしんじ、監督:髙橋 渉、脚本:三浦直之、キャラクターデザイン:荒川眞嗣、音楽:atagi(Awesome City Club)
.jpg)



