いい映画を見ると、その余韻が何日も残り、思い出すたびにニンマリしてしまう。『クローブヒッチ。キラー』はそんな映画だ。連続殺人犯が出てくる映画なのに、人間ドラマやラブストーリー以上に人間の心の広さ、深さ、優しさ、痛ましさがある。そんな映画との出会いは、私にとって喜びそのものだね。
『クローブヒッチ・キラー』は、アメリカの小さな田舎町を舞台に、16歳の少年が、ある疑惑を抱くところから始まる。スリラーの醍醐味を味わえるだけではない。家族、コミュニュティへの思い、それ以上に目を逸らさずに善を行う勇気に心が掻き立てられる。
緑豊かな、のどかな町。そこで十数年前に起きていた連続殺人事件は、未解決のままだった。10人の被害者は、クローブヒッチと呼ばれる特殊な結び方で縛られていた。その後、事件はピタリと止まっていたが、毎年、被害者を追悼するしきたりが、街に影を落としていた。
16歳の少年タイラー(チャーリー・プラマー)は、貧しいけれど敬虔で温もりのある家庭に育っていた。ある日、夜中にそっと家を出て、父親のトラックを使って、気になる彼女と逢瀬する。その時にトラックの中で見つけたもの、それは女性が縛られた雑誌の切り抜きだった。最初は気にも留めなかったけれど、学校で、”変態”だと噂が流れてしまう。なぜ、そんなものがトラックにあったのか。ボーイスカウトの団長として信頼もあり、幸せに家族をまとめている父親に秘密があるのか。
映画の感触を上質なものにしている理由の一つは、俳優陣に違いない。主人公のタイラーを演じる、チャーリー・プラマーは、一瞬の表情にも吸い込まれそうだ。父親のドナルドを演じるディラン・マクダーモットは、明るく好きにならずにいられない魅力を感じさせてくれる。
悲しい過去を持つ敬虔な小さな町も脇役以上の存在感を持っている。丁寧さと節度ある描写のおかげかもしれない。そして、この映画の奥行きの深さは、語られない物語=犯人の育ち方、葛藤、欲望などが透けて見えるところだ。決して興味本位でなく、悲しさと愛おしさ、さらに滑稽さまでが香り立つ。最後に待つ展開は、調和度が高く時計仕掛けのように完璧だ。
クローブヒッチ・キラー
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6月11日(金)より新宿武蔵野館、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
監督:ダンカン・スキルズ
脚本:クリストファー・フォード
撮影:ルーク・マッコーブレー
出演:チャーリー・プラマー、ディラン・マクダーモット、マディセン・ベイティ、サマンサ・マシス【2018年/アメリカ/111分/原題:The Clovehitch Killer】配給:ブロードウェイ