『ロイヤルホテル』映画レビュー メリハリのあるゾクゾクするドラマ

箱庭のように整って管理された日本に住んでいると、広大なオーストラリアは、ワイルドで過激な別世界だ。映画でも、『マッドマックス』、『アニマルキングダム』、斬新ホラーの『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を見れば、良い悪いは別として、その国独特の雰囲気が伝わってくる。

映画で疑似旅行するだけでなく、実際にワーキングホリデーをするつもりなら、見知らぬ世界の荒々しさに自分を投げ込む覚悟がいる。

カナダから来た旅行者の二人、ハンナ(ジュリア・ガーナー)とリブ(ジェシカ・ヘンウィック)は、金欠が理由で、ワーキングホリデーに挑戦することととなった。場所は、二日に一本しかバスが走らない田舎。広漠とした場所にポツンと大きな屋敷が建っている。映画『ロイヤルホテル』の舞台だ。

酔客で混雑した店内では働く女性に対して、不快感を抱かせる言動が向けられる。信じられない光景を目にすることになった。

映画『ロイヤルホテル』は、2016年のドキュメンタリー映画「Hotel Coolgardie」に着想を得て作られている。リアルなストーリーがベースにあるところがポイントだ

『アシスタント』で名をあげた監督キティ・グリーン監督は、ホラー/スリラージャンルに転げ落ちそうな崖を、指一本で踏みとどまり、ゾクゾクするドラマに仕上げている。

パブの客たちは、粗野な見かけの奥に、個性と得体の知れなさと、愛嬌を持ち、印象を変えていく。『ロイヤルホテル』は、人間性が、わかるかどうかのゲームにも似ている。最後まで、どっちに転ぶかわからない。

飲む時は、荒い言動が目立つけれど、実際には心優しいのかもしれない。恋に落ちるのかもしれない。

そんな相手を前にする時には、野生的な勘と、瞬発力、自分を貫く気持ちが必要となる。それがなければ流される。紙一重の世界。笑わないハンナには、それがある。人を信じやすく詰めが甘いリブとは対照的だ。

それでも、ハンナもリブも、楽しむときは楽しみ、働くときはせっせと働く。そのメリハリが、映画にリズムと上質な風を送り込んでいる。パブのオーナー、ビリーを演じるのは『マトリックス』シリーズや『Vフォー・ヴェンデッタ』のヒューゴ・ウィービング。彼を皮切りに、配役陣がとてもいい。

(オライカート昌子)

ロイヤルホテル
7月26日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
© 2022 Hanna and Liv Holdings Pty. Ltd., Screen Australia, and Create NSW

監督・脚本:キティ・グリーン『アシスタント』 
出演:ジュリア・ガーナー『アシスタント』、ジェシカ・ヘンウィック『マトリックス レザレクションズ』、ヒューゴ・ウィーヴィング『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、トビー・ウォレス『ベイビーティース』、ハーバート・ノードラム『わたしは最悪。』