『アオラレ』映画レビュー(感想)

不運は役立つときもある。自己憐憫で自分を救った気分になる。”不運自慢”で、人の共感や同情を得ることもできる。幸せ自慢は、反感を与えかねないけれど、不運は人を結びつける。

『アオラレ』は、大きな犠牲を払いながらも主人公のレイチェルが”不幸と不満”から逃れようとするストーリーだ。彼女は、自分と家族を狙う相手と真っ向から戦うことになる。苛立ちが、不運な相手と同じ波長になってしまったところから全てが始まる。誰にでも起こりかねない、路上トラブル。だからこそ、観客を凍り付かせる。

前の車が信号が変わっても動かない。乱暴にクラクションを鳴らしたとき、主人公のレイチェルは、焦りと不安の真っただ中にいた。寝坊のせいで仕事に遅れる寸前だ。その前に子どもを学校へ送り届けなければならない。道路は渋滞して、抜け道すら車でいっぱい。

運悪く、その車は隣に来てしまった上、運転手に話しかけられてしまう。やんわりと。「すまなかったね。ちょっとぼんやりしていたんだ。だけど、あんな風に乱暴にクラクションを鳴らす必要はないよ。俺も悪かった。謝るよ。だけど、君にも謝ってほしい。不運な日なんだ」

ましな対応をすれば、最悪なことは起こらなかっただろう。だけど後の祭りだ。その後、『アオラレ』のスリルは最速度で高まっていく。

”男”を演じるのは、正義の味方や頼りになる男を演じさせたらピカ一のラッセル・クロウ。今回は体を不幸と脂肪の固まりと変え、人間味のある男がモンスターに変わっていく過程を貫禄と余裕で演じている。細かいところまで行き届いた存在感は、身一つで、世界をひっくり返しそうな勢いだ。

アカデミー賞受賞を果たした俳優が、悪役を演じる。それにより、これほど説得力を与え、ディテールの説明を省けば省くほど、その世界が豊かさと深さを感じさせるのか、とめ息をつかせるほどだ。

一方のレイチェルも、相手役として引けを取らない。離婚後シングルマザーとなり、なんとか生活を保とうと必死の細身の彼女が、家族と自分を守ろうとあらゆる手段を使って対抗していく。最後は息子のカイルも参戦。サッカーや相撲などあらゆるスポーツのベストの組み合わせのようにエネルギーを感じさせる戦いだ。このスリル満点の勝負は、最後まで息抜きさせずに楽しませてくれる。

オライカート昌子

アオラレ
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2020年製作/90分/PG12/アメリカ
原題:Unhinged
配給:KADOKAWA
出演:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、、ガブリエル・べイトマン、ジミ・シンプソンJ、オースティン・マッケンジー
監督:デリック・ボルテ
脚本:カール・エルスワー