『侍タイムスリッパー』安田淳一監督インタビュー その4 寅さん現象起こる!

『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督インタビューの4回目は、公開前には思っていなかった効果など、寅さん現象などについて語っていただきました。

『カメラを止めるな』にもらった勇気


━━新しい映画の世界が開けた気がしますね。今まではカメ止めだけだったけれど、これからはサムタイとカメ止めと。

安田淳一監督:ファンの方は、第二のカメ止めという言い方がお好きじゃない方もいらっしゃるようですが、カメ止めという現象がなかったら、そもそもない話なので。僕はすごくリスペクトしています。

カメ止めが自主映画界に先駆者としての役割があったとしたら、あの奇跡に再現性があるんじゃないかという提示をするのが、この作品の役目かなと、僕は勝手に思ってて、もし、この映画がある程度の成功をおさめたら、今、インディーズで頑張っている人も励みになるんではないかと思っています。それは僕がカメ止めからもらった勇気のようなものを、現場で頑張っている人がもらってくれたらなあと、思っています。簡単じゃないし、相当これしんどいぞ、というのはありますが。

━━これだけのクオリティがなければあり得ない話ですね。カメ止めは、ワンアイデアの映画でしたが。

安田淳一監督:でもね、カメ止めの「発明みたいな構成」の脚本というのは、替えられない特徴でね。あの脚本の爆発力に匹敵する効果を得るために僕としては無茶苦茶無理しているわけですよ。

カメ止めは制作費300万円といわれていますが、その約10倍のお金を自腹で出して、いろいろなプロに協力してもらって、追いつけるか追いつけないかぐらいの、凄い作品なんですよ。費用対効果でいったら、絶対追いつけない。あの脚本のインパクトと近いレベルのものをなんとかだそうと思って、これだけ、大がかりになっているわけだから。カメ止めが、どんだけ凄い映画だったかというのを、今かみしめているところであります。日本一かみしめています(笑)

全て狙って作っていたけれど、公開後に知ったこともあった


━━『侍タイムスリッパー』は、現象的にはカメ止めの後を追っている面はありますが、中身的には、普段映画館に行かない層にも届く映画だと思います。口コミや人に薦めたい映画だと思いますが。それもやはりすごい脚本のせいもありますね。後からじわじわきて、あれはこういう意味だったのかとか気づくこともありました。それは、全て狙っていたのでしょうか?

安田淳一監督:基本的にはすべて考えてやっていることなんですよ。ただ僕以上に深読みしていただいて、僕もああ、そういうことなんだなと、こっちが納得することも多いです。例えば、会津の末裔の方が、とても喜んでくださっているってことも、公開後に知ったことです。

━━そうなんですか?

安田淳一監督:会津の武士がこういうふうに描かれるのは、会津のものとしてうれしい、ぜひ会津でも公開して欲しいという声も聞きました。いろいろな面で作品が一人歩きしているところがあります。

また嬉しかったのは、撮影時は、クライマックスのシーンを、いかに本物の刀に見せるかということだけを考えてやっていました。殺陣師も、脚本家、カメラマンとしての僕も。どうやったら真剣に見えるかばっかり考えていました。シンプルに。

そうしたら、それがなんとかできた以上に、お客さんの声としては、本物の刀に見えたというだけでなく、「本物の武士」がいたということを言われました。それは僕らが意図した以上のものをお客さんが受け取ってくれたということでもあります。

あと、お客さんがよくおっしやるのは、あの後、新左衛門はどんな作品に出ているのかとか、ゆうこちゃんは監督になったのかとか、あの丸顔の人は、どうしてはるのかなとか、お寺のご住職と奥さんは仲良くやってはるのかとか。

『侍タイムスリッパー』は皆さんの映画になった


僕らが寅さんを見たときに錯覚するじゃないですか。日本のどこかを旅していて、柴又に行けばとらやがあるような。あのイメージをこの作品に対しても持っていて、これは外国人の人にも言われました。

オーストラリアの人が、あの人たちは今どうしているのかな、と、考えてしまうんですとおっしゃっていて、お客さんが、彼らのことを実在する人のように考えているのが、嬉しいし、とても作品を愛してもらっているなと。嬉しさと同時に怖さもある。

今までだったら、納期がないから、上手くいかなかったところはすぐ撮り直していたけれど、この作品は、文字が間違っていても、一回くらいならバレないだろう思っていたれど、3回とか4回とか、17回見てるとか。そのミスを僕の思いで撮り直してしまったら、作品を愛している方は、そういうところも込みで愛してもらっているから、本当だったら簡単に直せるけど、直せないです。

そのぐらい、自分の作品ではなく、皆さんの作品になったなあと。作家冥利につきます。

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(取材/文 オライカート昌子

侍タイムスリッパー
絶賛公開中
©2024 未来映画社
配給:ギャガ 未来映画社