
『サイレントナイト』解説・あらすじ
サイレントナイトとは
伝説の名匠監督ジョン・ウー監督作品。2003年の『ペイチェック 消された記憶 』以来のアメリカ映画カムバック作品。傑作アクション『ジョン・ウィック』シリーズの製作陣らとタッグを組んだ。『サイレントナイト』は全篇セリフなしという驚きの新機軸でアクション映画に新たな風をもたらしている。
主演にスウェーデン出身のジョエル・キナマン。『ラン・オールナイト』、リブート版『ロボコップ』、『スーサイド・スクワッド』(16)とその続編『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)でリック・フラッグ役を演じている。
ジョン・ウー監督とは
伝説的傑作アクション『男たちの挽歌』シリーズを手掛け、香港ノワールというアクション新ジャンルを誕生させ、その後、アメリカに進出。
『ハード・ターゲット』、『ブロークン・アロー』、『フェイス/オフ 』、『ミッション:インポッシブル2』などを手掛けた。『ミッション:インポッシブル2』は、世界的大ヒットを収め『ミッション:インポッシブル』シリーズを人気シリーズに押し上げた。
サイレントナイトあらすじ
男は走っていた。空には風船。その日はクリスマス・イブだった。彼は一番大切なものを奪われてしまったのだ。そして彼も重症を負う。かろうじて命は助かったものの、絶望が彼を覆っていた。ある日彼は立ち上がり、復讐のための計画をスタートする。ターゲットはギャング。あの日から一年後の12月24日のカレンダーに「殲滅する」と書き込み、準備を始める
『サイレントナイト』ポイント解説
ジョン・ウー監督のセルフオマージュと小物
ジョン・ウー監督と言えば、二丁拳銃。ロングコート。スローモーション。爆発シーン。『サイレントナイト』では、スローモーションこそないものの、二丁拳銃とロングコートのシーンはある。あくまでも観客を喜ばせるためなのか、大げさではないところがポイントだ。
爆発シーンもここぞとばかりに使われている。ジョン・ウー監督らしい洗練された映像効果とストーリーを動かす点に注目。
アクションシークエンス
冒頭から一気にジョン・ウー監督のアクション世界に引き込まれる。敵陣に乗り込むところは、『レイド』やリブート版『ジャッジドレッド』を思わせる。狭い階段シーンのアクションは、ほぼワンカット。チェイスやクラッシュシーンのために18台の主要な車両が使用され、その多くが現実に完全破壊されたという。特殊効果チームを率いたダニエル・“チョヴィー”・コルデロは、爆発、煙、弾丸、炎など撮影中に物理的に再現可能な要素を駆使し、それぞれのシーンにリアリズムを持たせることに成功。
無言劇の効果
セリフがない分、映像の力の大きさに注目。アクションシーンだけでなく、主人公や周囲の人の表情で見せるウェイトが大きく、俳優の力量が試される。ジョエル・キナマンをはじめとした俳優陣のの表情は細かく、一瞬ごとに変化する。身体的表現や視線、動作など、あらゆる手段を駆使して感情を伝える技量
回想シーンのつなぎ目のマジカルな魅力
リアルタイムと回想シーンへと移るポイントが独特だ。前半車に乗っているときと車から降りるときの状況変化など目を見張るシーンがある。ジョン・ウー監督でしか見られないオリジナル映像だ。小物を使った回想シーンへとのつなぎ部分にも注目。
映像の心に残る美しさ
ジョン・ウー監督作品には映像美が欠かせない。『男たちの挽歌』の「戦闘中に舞い飛ぶ白い鳩」が有名だが、『サイレントナイト』の映像美効果をもたらしているのは、クリスマスイブだからこその小物だ。ぜひ注目して見て欲しい。
サイレントナイト映画レビュー
サイレントナイトを見て思ったのは、本物の威力だ。アメリカ映画界から遠ざかっていたジョン・ウー監督だが、『ブロークン・アロー』、『フェイス/オフ 』、『ミッション:インポッシブル2』で、彼がアメリカ映画のアクションをより大胆にし、洗練させてきた。
『サイレントナイト』は、ジョン・ウー監督の呼称”バイオレンスの詩人”そのもののアクションシーンと優しさ満載で描かれるヒューマンなパートの両方を堪能できる稀有な作品だ。爆発シーンでも、カーチェイスシーンでも独創性と美学に驚かされる。
セルフオマージュシーンはともかく、その後の映画世界の流れのオマージュも感じられる。たとえば、女性の登場シーンは、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』。ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』を思わせる空気感もある。
セリフのない映画は、最近でも『ロボット・ドリームズ(23)』や『Flow(24)』などの優れた作品があり、映画にセリフは必要不可欠ではないことに納得させられた。アクション映画でもそれが成り立つのだ。『サイレントナイト』では、無理なく自然な形で映像力の強化という面と感情表現、目での会話などで大きな成功を見せている。
前半は、スローに感じるが、後半の圧倒的なシーンの密度は私たちの期待を裏切らない。20年ぶりにアメリカ映画に復帰した巨匠の映画を見逃す手はない。それにしても、ジョエル・キナマンはいい俳優だ。彼の持ち味と実力を最大限引き出しているのも、『サイレントナイト』の特徴だ。
サイレントナイト
©2023 Silent Night Productions, Inc. All Rights Reserved
4月4日(金)新宿バルト9ほか全国公開
配給:クロックワークス
製作・監督:ジョン・ウー 脚本:ロバート・アーチャー・リン 撮影:シャロン・メール 音楽:マルコ・ベルトラミ
出演:ジョエル・キナマン、スコット・メスカディ、ハロルド・トレス、カタリーナ・サンディノ・モレノ
2022年/アメリカ/英語/カラー/ビスタサイズ/5.1CH/104分/原題:SILENT NIGHT/字幕翻訳:長岡理世/