『愛する人に伝える言葉』映画レビュー

死や病いが題材の映画はたくさん作られてきた。湿っぽくて、お涙頂戴の物が多いイメージがある。反面、死と直面することで、生の輝きが強くクローズアップされる過程を描いたものも多い。最近では、『きっと星のせいじゃない』、『ビックシック』、『55』など。

フランスを代表するトップ女優、カトリーヌ・ドヌーヴがセザール賞を受賞した『愛する人に伝える言葉』は、病と迫りくる死が主軸であっても、見終わった後に残るさわやかさと温かさが格別な映画だ。

39歳の一人息子、バンジャマン(ブノワ・マジメル)が、ステージ4のすい臓がんに冒されてしまった。バンジャマンは、演劇教師として情熱を燃やしてきた。彼は治したいと願う。母のクリスタルは、まだ若い一人息子に生きていて欲しいと切に望む。

彼らが頼ったのは、名医のドクター・エデ。化学療法は望まないとバンジャマンは言う。薬の副作用に苦しみながら、二年後にあの世に行くのは嫌だ、と。ドクター・エデは、二年もありませんと答える。iドクター・エデは嘘をつかない。余命を知りたかった教えます、と。バンジャマンは、副作用が少ない化学療法を使うことを選択する。

ドクター・エデの病院はユニークだ。最初のシーンからして、この映画の風味が決定される。部屋に集まった看護師たちやスタッフとのミーティング風景と、音楽。実は、映画の陰の主役ともいえる、ドクター・エデを演じているガブリエル・サラは、実際にがんの専門医だ。死は彼にとって日常的なものなのだ。そのバックグラウンドは、生と死に日々直面する真実味として作品を支えている。

「ずっと付き添ってきた妻がどうしても用事があって、家に帰ることになった。その10分後に夫は亡くなった」というエピソードが語られる。ドクター・エデは、「行く時を決めるのは患者自身。その瞬間を共にするのを決めるのも患者自身だよ」と言う。この言葉は、作品の最後に効いてくる。

静けさと対になる感情の大きな動きが、一つ一つのシーンに独特のリズムを作り、見飽きない。それは映画自体にもある構造でもある。静けさと感情のほとぼしりが、交互に描かれる方式だ。

前者は、バンジャンマンや母クリスタルが、病と向き合う病室時間。後者は、バンジャンマンの演技教室のシーンだ。まるで呼吸のように、二種類の違う色が交互に混ざり合う。それは生と死の呼吸にも見えてくる。

「人生のデスクの整理」という終活映画にも見えて、強烈に生の鮮やかさを描いている。悲しみより安心感、失う寂しさより、新たな幕開けを予感させる軽やかさが優しく包んでくれる映画なのだ。

(オライカート昌子)

愛する人に伝える言葉
10 月 7 日(金) 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座 他全国ロードショー
配給:ハーク/TMC/SDP
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© Photo 2021 : Laurent CHAMPOUSSIN – LES FILMS DU KIOSQUE
監督:エマニュエル・ベルコ
脚本:エマニュエル・ベルコ、マルシア・ロマノ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメル、セシル・ド・フランス、ガブリエル・サラ
2021 年/フランス映画/フランス語・英語/122 分/カラー/スコープサイズ/5.1ch デジタル/原題:De son vivant
字幕翻訳:手束紀子 © Photo 2021 : Laurent CHAMPOUSSIN – LES FILMS DU KIOSQUE
配給:ハーク/TMC/SDP 後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本