ベル・エポックでもう一度

ノスタルジーは金になる。これは、『ベル・エポックでもう一度』の中のセリフ。お金を出せば、過去の好きな時間に戻れるタイム・トラベルサービスがキー。SFではない。映画やTVのようなセットを完璧に作り上げ、役者を配置し、あたかも本物の過去世界で過ごせるようにする体験型エンターテイメント。確かに金になりそう。

粋な題材だ。しかもフランス映画。出演者には大物をそろえている。ダニエル・オートゥイユや、ファニー・アルダン、ギョーム・カネ、ドリア・ティリエなど。贅沢そのものだ。お洒落でレトロで、活力アップ効果も期待できる、新感覚恋愛再生ストーリーとなっている。

”ベル・エポック”は、1974年にフランス、リヨンにあったカフェの名前。そこに戻れることになったのは、くたびれ果てて、うつに近い状況にあったヴィクトル(ダニエル・オートゥイユ)だ。かつてはイラストレーターとして活躍していたが、今は時代に取り残されている。妻のマリアンヌ(ファニー・アルダン)は、デジタル新社会を悠々と泳ぐようにエネルギッシュに生活を送っている。徐々に二人の間には距離ができてきていた。

ヴィクトルは、自分あての『時の旅人社 招待状』を見つける。招待状は、息子からの贈り物だった。妻に家を追い出され、未来が白紙となった彼は、興味を覚えて時の旅人社に向かった。そこでは、妻マリアンヌと初めて出会ったカフェ、1974年の”ベル・エポック”にもう一度戻るチャンスが待っていたのだ。

観客は、ヴィクトルとともに、1974年を味わうことになる。ファッション、ライフスタイル、夢、希望。いまはもうないけれど、思い出の中では今も新鮮に息づいている輝く時代。

ヴィクトルは、いつの間にかこびりついていた疲れや自信のなさを洗い流す。もう一度恋の刺激を取り戻す過程は、スムースで楽しげだ。

さすがにフランス映画だ。アイロニーの味も忘れていない。ヴィクトルは、妻を愛しているのは事実だけれど、妻役を演じるマルゴ(ドリア・ティリエ)という女優にも恋してしまう。マルゴは、時の旅人社の創立者兼監督のアントワーヌ(ギョーム・カネ)と恋愛関係を持っていたが、うまくいっていない。

恋愛関係は、四角関係にも発展し、タペストリーのようなデザインを描いていく。同じところをグルグルと回っている定番化した毎日には、時には刺激が有効。恋とノスタルジーが役立つのかもしれない。しかも恋のスパイスは伝染するらしい。

(オライカート昌子)

ベル・エポックでもう一度
6月12日(土)、シネスイッチ銀座ほか公開
©2019 – LES FILMS DU KIOSQUE – PATHÉ FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINÉMA – HUGAR PROD – FILS – UMEDIA
監督・脚本・音楽:ニコラ・ブドス
配給・宣伝:キノフィルムズ
出演:ダニエル・オートゥイユ、ギョーム・カネ、ドリア・ティリエ、ファニー・アルダン、ピエール・アルディティ、ドゥニ・ポダリデス
2019年|フランス|カラー|シネスコ|DCP|5.1ch|115分|字幕翻訳:横井和子|原題:LA BELLE ÉPOQUE|R15|
提供:木下グループ