『侍タイムスリッパー』安田淳一監督インタビュー その3 インディーズ映画の強味とは

『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督インタビューの三回目は、インディーズ映画の唯一の強みなどについてです。単館公開から、公開一か月後に100館以上の拡大公開の秘密とは。

見た後に明日も頑張ろうと思える娯楽作品を作りたい


安田淳一監督:評論家ではなく、僕はユーザーの感覚を持っているというのは財産かもしれません。評論家が何を言おうとも、お客さんが喜べばそれでいいという確信があります。

劇場映画一作目の『拳銃と目玉焼き』という作品は、自分のような40代の男性が喜んでくれればいいな、二作目の『ごはん』は、地方のおじいちゃん、おばあちゃんが喜んでくれればいいなと思って作っていました。

『侍タイムスリッパー』もそれに近いんですけれど、家族みんなが楽しんでくれればいいなという感覚で作っていて、自分の父母と一緒に見に行って楽しんでくれるかな、子どもも小学校以上の子供と行って楽しんでくれるかなと、考えながらずっと脚本も書いていました。

こういうのを作ったら、シネフィルの目の肥えた人たちには何か言われるだろうな、というのは気にしないで作ろうというのは、明確にあって、この未来映画社というレーベルは、家族で楽しめるという部分と、見た後に、明日も頑張ろうと思える娯楽作品をつくっていきたいというのはずっとポリシーとして持っているから。それをブラさずにやってきているという感じです。

インディーズ映画が商業映画に唯一勝てることとは


━━作っている側が、自由であるからできることですね。しがらみなく、ストレートにやりたいことができるのはいいですね。

安田淳一監督:お金かかるんですよ。自分のお金ですけどね。自分のお金はかかるけど、納期という概念がないので、やり切れるんです。インディーズ映画が、商業映画と唯一勝負できるのは、そこだけなんですよ。

商業映画は、しがらみということを抜きにしても、予算の都合である程度、こんなもんでいいかということで進まなあかんところが、あるんですけど、例えば『ごはん』という映画だったら、公開まで4年くらいかけて撮っているんですよ。

公開後も3年くらい追加撮影しているんですけれど、要は、なんも言われない上、納期がないから、商業映画なら2週間3週間くらいで撮る自然相手の映画を、僕は4年かけて撮っている。だから画に厚みが出る。これは商業映画にはできないことなんです。納期とか気にせず、クオリティの高いものを、ちゃんと作れるというのは、唯一インディーズ映画が勝てるところなんだと、僕は思っています。

回想シーンは必要か否か


今回の映画でも、商業映画では、回想部分とかはあんなに事細かに多分撮らないと思います。例えば後半にある回想シーンですが、20年間を描くセリフもないシーンですが。「パッと流していいやんか」と、実際、撮影所に言われました。脚本を見てくれた人が「監督、ここはいらんで。省けるで」と。テレビ畑なので、コストを下げて、さっと撮るプロフェッショナルなので。

僕は、「丁寧でいらんという人もいると思いますが、撮ったら撮っただけ説得力もでるし、むしろこのキャラクターにお客さんが肩入れしてもらうには、このシーンは絶対撮らなあかん」と言いました。

このキャラクターに興味を持ったり親近感を抱いてこそ、クライマックスでの緊張感が生まれると思ったので、普通はあんまりやらないし、インディーズ映画ではほぼやらない、商業映画でも、これはいくらかかるんだと。

そういう風にクオリティにこだわって、やり切ることができるのは、インディーズの武器です。お金はかかりますが。自分でお金を出したら、使う範囲も自分で決められるから、死なばもろともという。

━━回想シーンと言えば、前半の山口さんの回想シーンもとてもいいじゃないですか。

安田淳一監督:あれは、追加撮影です。22年に初号を京都国際映画祭で上映した時には、タイムスリップ以降のシーンしかなかったんです。予算の都合で。ですが、会津時代のシーンは撮らなあかんなと。新左衛門というキャラクターの青春時代を描けば、キャラクターの厚みがでる。それと、クライマックスのシーンへの伏線にもできるという理由です。あれを撮ったのは、今年の4月に撮ったんです。撮影所の人が、まだやるんかよと。もう一回お願いしますと。

で、計算通りで、撮ってから、撮影所の人も、あれはやる価値あるわと、おっしゃっていただけました。僕はわかっていたんですけと(笑)。

危ない橋の渡り方


━━先ほど、危ない橋をたくさん渡ったとおっしゃいましたが、具体的には?

安田淳一監督:『カメラを止めるな』のようになったらええなあと、再現をもくろんで、いろいろ考えもしますよ。やろうと思ったときに、お金もかかるし、自腹でやらなきゃならん。だけど、もしかしたら可能性はゼロではない。ぐらいのことは思いますよね。

たとえ5%でも。ただ5%のために、貯金全部はたくというのは、やっぱりギャンブルなんですよ。普通の商売だったら、調査をして、これは商売になると、7割8割の勝算にかけて資金を投下するわけですけれど、5%以下の勝ちの可能性しか見えていないのに、何千万円も投資するというのは、ギャンブルとしか言えない所業です。

もくろんでというのも願望に近い話で、結果的には、あらゆるところで色んな人に助けてもらって、手伝ってもらって、人の情けにすがってここまでなんとか来てる感じなので、どこから見ても、危ない橋を渡ってるでしょ。

多少の光明に対して、突っ込む自腹の金額が多すぎます。一人製作委員会なんで。誰もリスクを負ってくれませんから。

一緒に危ない橋を渡ってくださった人々にしびれた


危ない橋を渡ってるのは、東宝シネマズさんやギャガさんです。僕の作品は、宣伝費はゼロ。それが、始まって2週間で、100館でやるとか、言ってくれたわけです。

東宝シネマズさんだったら、500席を1日5回、まわすわけですが、どう考えたって宣伝費ゼロの作品にお客さんが入るわけがない。僕が思ったのは、そのこと自体を、メディアを引き付けるカードに使うことにしたのかな?と。リスクはあるけれど、そういう意味で危ない橋を一緒に渡ってくれたのではないかと思いました。

気持ちいいじゃないですか。このインディーズ映画がヒットすれば痛快というか、業界に一石を投じると言うか、面白がって、コケてもみんな一緒だというような。そんな感じでやってくださっているような気がして、しびれるなーと。これは僕の妄想なので、裏を取ってるわけではないですよ。
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(取材/文 オライカート昌子

侍タイムスリッパー
絶賛公開中
©2024 未来映画社
配給:ギャガ 未来映画社