『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督にお話を伺いました。今回はその2回目です。『侍タイムスリッパー』は、単館公開から、100館以上の拡大公開が実現。各地で人気を博しています。
主演の山口馬木也さんには、最初は違う役を考えていた
━━『侍タイムスリッパー』の素晴らしさの一つに、キャスティングがありますが、特に主役の山口さんは素晴らしいのですが、どのような経緯でこのようなキャスティングに?
安田淳一監督:まずロケハンがあったんですよ。撮影所を借りられたらいいなとは思っていたんですが、舞台は京都で、僕が住んでいる場所なので。昔のドラマや映画を見ても、古すぎて、なくなったりして変わっていたりしてるかもしれへんから、NHKプラスに加入して時代劇を見るようにしていたんです。
たくさん時代劇があり、しかも近年の撮影なので、まだロケ場所が残っていました。だからロケハンの下調べもかねてずっと見ていたんですが、そのHNK時代劇の数本に時に山口馬木也さんが出てはって、この人いいかもしれないと思ったんです。最初は対立する相手役にポンとおきました。で、さらに主役はだれがいいんかなと思っていたのですが、主役で殺陣がきちんとできる人はなかなか見つからなかったんです。
山口さんを主役にしてもいいと思ったんですが、山口さんが主役のポジションに移動したら、対立相手のポジションをできる人はいるんかな、いないよなと思ってぼんやりNHKの時代劇を見ていたら「あっ、いた」と。
山口馬木也さんの凄いところ
冨家ノリマサさん。この人だと思いました。それで彼のことを調べたら、SNSに自主映画に出ているというツイートがあったんですよ。もしからたら、出てもらえるかもしれんと、DMで連絡をとりました。脚本を送ってくださいとのことで、すぐに「面白いからやらせてください」という返事が来て、とんとん拍子で進んでいく。一通りのパズルはできたなという感覚はありました。だから偶然です。
偶然も、意識していないと発見できないですね。幸運にも山口さんと福家さんと出会えたし、もちろん、以前から俳優さんとしては知っていました。
ただ、山口さんは、実際にお会いするまでは、昔の『剣客商売』で出ているときは、髪の毛を上に引っ張っていて、目が鋭いイメージがあって、今回の役じゃないなあという気がしたんです。ですが、あれは単に髪の毛を上に引っ張りすぎただけで、実際にお会いすると、とてもやさしい目をしてはった。
山口さんが凄いなあと思うのは、喫茶店で切々と語るシーンでは、柔和で優しい目をしている。立ち回りのシーンでは、蛇みたいな怖い目になる。
キャスティングには自信がある。その理由とは
キャスティングについては、ラッキーもあったのですが、その一方で、僕はキャスティングは、ほぼ失敗しないという自信があるんです。イベント用のショートムービーを作っていた経験があったので。その場合、お客さん(クライアント)も素人なので、説得力の薄い俳優さんを起用すると、「なんで素人を使うんだ」と、すぐ言われてしまう。
だから僕は、お芝居ができるのは当然として、映像の中で存在感を持っていること、説得力があること。美人は美人、男前は男前、おっちゃんはおっちゃんとはっきりさせる。どういうことかというと、イベントで映画を見せるときは、何?って思わせたらだめなんです。一回見せて、一回で納得させることが大事だから。
映画に関しては、主人公に個性があるのはOKなんですよ。なぜかというと、主人公を描く時間があるから。ですが、その周りの役に、違和感のある方をキャスティングしてしまうと、ん? ということが起こる。でもそのキャラクターに関しては語る時間はないから、周りの人たちは、一目で納得できる雰囲気が必要というのが僕の考え方です。
キャスティングに対する信念とは
一度だけ、情でキャスティングしたことがあるのですが、やっぱりだめで、話し合って、円満に降りてもらったことがありました。直感を大事にして、この人だと思う人にやってもらうことで、スカッとはまりました。福本清三さんの役だったんですが、違う俳優さんに最初はやってもらったんです。いい人で、いつも応援してもらっているからと、キャスティングしたのですが、うまくいきませんでした。ご本人も「何か違うなあ」という表情でした。やっぱりキャスティングは自分の信念だなと。情に流されてはいけないなと。
僕のようなレベルだと、芸能界のしがらみとか一切ないんで。そもそもそういうのは合わないんで。それはよかったなと思います。確かにメジャーな人にオファーしたらと考えたこともあったんですが、そうしたら、逆の作用があって、有名な人や名優だと、しょっちゅう主役をやっていたりする。そうすると「あのひとがまた出てはる」と、どうしても見てしまうんですよ。
そうみると山口さんは、僕的には知名度がある人ですが、意外と皆様ご存じないと。昔から知っている人は『剣客商売』の秋山大二郎だ、懐かしいなと思っても、知らない人だと、本物の侍にしか見えないから、結局、物語に対する没入感がでるので、このやり方はよかったなと。
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(取材/文 オライカート昌子)
侍タイムスリッパー
絶賛公開中
©2024 未来映画社
配給:ギャガ 未来映画社