
『ミッキー17』解説・あらすじ
ミッキー17とは
2019年にカンヌとアカデミー賞を共に制覇した「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督の受賞後初となる映画が『ミッキー17』。『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、『ザ・バットマン』などのロバート・パティンソンが主演。共演にナオミ・アッキー、スティーブン・ユァン、マーク・ラファロ、トニ・コレットなど。原作は、エドワード・アシュトンの小説「ミッキー7」。
ボン・ジュノ監督とは
1969年生まれ。韓国出身。
主な作品に
『殺人の追憶』(2003)
『グエムル-漢江の怪物-』(2006)
『母なる証明』(2009)
『スノーピアサー』(2013)
『オクジャ/okja』(2017)
『パラサイト 半地下の家族』(2019)
などがある。
ミッキー17 あらすじ
何をしても失敗ばかりのミッキーは、一発逆転を狙って、契約書をよく読まずにある仕事にサインしてしまう。内容は、身勝手な権力者たちの命令に従って危険な任務を引き受け、死んでは生き返ることを繰り返す仕事だった。使い捨てワーカーとして搾取され続けたある日、ミッキー17の前にもう一人のミッキーが登場。それは権力者たちへの反撃の第一歩になるのか。
ミッキー17 注目ポイント
ポイント1 俳優の細かいニュアンスが発揮される独特な撮影スタイル
トニ・コレットによると、ボン・ジュノ監督の撮影スタイルは他の監督とは違うとのこと。ロバート・パティンソンは、「この撮影法は俳優にとって衝撃かもしれない」と監督に言われたそうです。
その方法は、小さなパーツを積み上げていく方式。普通はいろいろなアングルから撮影したり、シーンを通して撮影したりするところ、ボン・ジュノ監督は「ワンシーンの真ん中のセリフだけ撮って次に進む」方式。それによって俳優は、そのワンシーンだけに集中することができて、演技の完成度が高まり、負担が少ないそうです。
その方法もあり、『ミッキー17』は、普通よりも俳優の演技のニュアンスが綿密。撮影直後に編集するため、俳優たちは自分の演技を見ることができ、全体の中でどう機能しているか確かめることができるため、オープンでコラボレーションしやすかったと、ロバートは語っています。
ポイント2 クリーパー
クリーパーは、三種類。
ベイビークリーパー コアラほどの大きさ
ジュニアクリーパー 大型のブタの大きさ。直立すれば人間と同じぐらいの高さ。
ママクリーパー 水平方向で約2.7メートル。直立すると、6メートルぐらい。
クリーパーVFXととも、トム・ウィルトン率いるパペット操演チームが活躍。
ポイント3 未来レトロの世界
セットは、どこか見覚えのあるレトロな世界と未来のイメージを組み合わせた美術が視覚言語として統一されています。宇宙船の内部構造も古くから使われている様子と、用途がはっきりしていてリアルな世界を構築しています。
ポイント4 ミッキーという存在
ミッキー役にロバート・パティンソンを起用した理由を、ボン・ジュノ監督は、『グッドタイム』、『ライトハウス』を見たときに、彼は全く別次元の俳優になったと感じたこと。また、ロバート・パティンソンがミッキーを演じるために持ち込んだアイデアには驚かされたそうです。即興でおもしろいセリフやシーンを生み出し、キャラクターに多くのニュアンスを与えてくれたとのこと。
特にもう一人のミッキーは、ボン・ジュノ監督が最初に想定していたキャラクターの枠を超えて創造し、作品にエネルギーを与えてくれたそうです。
ロバート・パティンソンは、ミッキーは単純に見えるけれど、実は複雑。純粋でナイーブなところがあり、傷を抱えている。『ミッキー17』の物語は彼が自立していくプロセスだということ。
ポイント5 ジャンルを超えて描く人生そのもの
マーク・ラファロの考えでは、『ミッキー17』には階級制度や人間性の喪失、宗教や国家などを辛らつな風刺として描いている。
ボン・ジュノ監督自身は、プロパガンダにしたくないし、映画は美しく楽しいものを作りたいと思っている。ただ、ミッキーが置かれている状況や扱い自体が、ある種の政治的メッセージになっていると思う。
トニ・コレットは、ボン・ジュノ監督は、特定の型にはまらず、ジャンルを横断・融合しながら全く新しいものを作ってしまう。それは人生そのもののよう。人生は型にはまらないから。
ボン・ジュノ監督は「今回初めて”人間の愚かしさ”を掘り下げた。そしてその愚かさが時に愛すべきものになる。よく私の映画は冷酷でシニカルと言われるけれど、『ミッキー17』は、温かみがある」と言われるそうです。
『ミッキー17』映画レビュー エンターテインメントの極致へ連れ出す
ボン・ジュノ監督の『ミッキー17』はエンターテイメントの極地に連れて行ってくれる。見たあとすぐにもう一度見たくなる。映画の舞台には行きたいわけではない。そこは地獄に近いから。
『ミッキー17』をもう一度見たくなる理由は、ロバート・パティンソン演じるミッキーにもう一度会いたいからだ。
ミッキーには死にそうな仕事だけが回ってくる。何度死んでも構わない契約をしているから。そんな過酷な労働をミッキーは黙って受け入れる。ミッキーにも生活の中で楽しみがある。たった一つでも楽しみがあれば、人はどんな境遇にでも耐えられるらしい。
魅惑のミッキーはさておいて、キャストと演技の素晴らしさが『ミッキー17』の満足度を高めている。ミッキーの唯一の友人ティモを演じるスティーブン・ユァン。彼の演技に泣かされてしまった。全く泣く要素がないシーンなのに。
イルファを演じるトニ・コレットは、いつも通りのトニ・コレットだ。エキセントリックで静けさとは程遠い。ところが、『ミッキー17』のトニ・コレットは、トニ・コレット印を100倍強化している。純度が高い。
イルファの夫を演じているマーク・ラファロに関しては多くは語らない。マーク・ラファロのファンは心して見る必要がありそうだ。いつもの謙虚で知的で大人しいマーク・ラファロを見るつもりでいると怪我をする。
小さなおもしろさを煮詰めて集積させているところが『ミッキー17』のボン・ジュノ監督の手腕だ。できれば、『ミッキー17』でアカデミー賞をもう一度取って欲しいぐらいだ。
映画の前半は回想シーン。リアルタイムに戻ってほどなく、ミッキーがもう一人登場する。そこからストーリーが動き出し、面白さは加速する。魅惑のミッキーが二人になったことも大きい。人物に奥行きができ、二重性やグラデーションの効果が生み出されている。それは見ている側にもゆっくり作用していくような気がする。
ミッキー17
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3月28日(金)公開 4D/Dolby Cinema/ScreenX/IMAX 同時公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督・脚本:ポン・ジュノ 『パラサイト 半地下の家族』
出演:ロバート・パティンソン『TENET テネット』『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、ナオミ・アッキー『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』、スティーブン・ユァン『NOPE/ノープ』、トニ・コレット『ヘレディタリー/継承』(アカデミー賞Ⓡ助演女優賞ノミネート)、マーク・ラファロ『アベンジャーズ/エンドゲーム』
製作年:2025年製作国:アメリカ 映倫区分:G