映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』を見ずして、オーストラリアを、いやオーストラリア映画を語るなかれ。そんな思いに駆られた。日本では、『マッドマックス』、『ハクソー・リッジ』、『ライオン』など、大作しか話題にならないけれど、オーストラリア出身の監督や俳優は数多い。監督ならジョージ・ミラーやメル・ギブソン。俳優なら、ヒュー・ジャックマン、クリス・ヘムズワースなど。本来なら、もっと素敵なオーストラリア映画が、世に出て話題になるべきだ。
そこに登場したのが、新鮮オーストラリアホラーの『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』だ。話題の配給・製作会社A24のきらびやかなラインナップの中でもホラージャンルで、『ミッドサマー』や『Pearl パール』を超えて、最大のヒットを記録している。
現代オーストラリアの若者の日常を肌を刺すようにくっきりと描きだし、怖さとセンスを併せ持った切れ味の鋭さが鮮やかだ。
登録者数 700万人近くの人気YouTube チャンネル「RackaRacka」で活動する双子のダニ―&マイケル・フィリッポウの初監督作品。登録者の感覚と意見と好みを把握しつつ、日々切磋琢磨し映像作品を作り続けるYouTuberの渾身の一撃が実を結んだというべきか。
題材は、憑依体験。”霊能者の手”に細工したものと、自分の手をつなぎ、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると、不思議体験ができる。ただしリミットタイムは90秒以内。
自ら進んで体験するのは、17歳のミア(ソフィー・ワイルド)。母を亡くした孤独の中で、親友ジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)の家に入り浸っている。喪失感と寂しさ抱えている。多少は誰でも覚えがあるティーンの心理だ。だから、怖いけれど魅かれてしまう。ミアの圧倒体験は、没入を誘う。
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』は、日常シーンがシームレスに恐怖シーンとつながっていくところがリアル。それは肌感覚で侵入してくる。霊能者の手と手をつなぐ。ろうそくを消す指の熱さ。元ボーイフレンドの足のシーン。その体感は、ホラージャンルに漂いがちな安物感を消し去って、執着や溺れる気分すらチャーミングに誘惑が漂う。
会話、ファッション、若者のノリ、家族描写が秀逸。ミアとジェイドは親友なのだが、性格やセンスがまるで違う。ミアが目立ちたいタイプだとしたら、ジェイドは普通の子。きれいなのだけど、着ているものも、映画の登場人物とは思えないシロモノだ。つまり、野暮ったい。ボーイフレンドのダニー(オーティス・ダンジ)との関係も、普通だ。一線は、越えない。もちろん、憑依チャレンジもしない。
ジェイドの母親を演じているのは、映画唯一の大物俳優。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのエオウィン姫こと、ミランダ・オットー。この毅然とした母親には逆らえない。
ところで、私にとって、究極のオーストラリア映画は、『アニマルキングダム』だった。この『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』がとって代わりそうだ。
TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
12/22(金)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia
公式サイト:https://gaga.ne.jp/talktome/
監督:ダニー&マイケル・フィリッポウ 出演:ソフィー・ワイルド, アレクサンドラ・ジェンセン, ジョー・バード
原題:Talk to Me|95分|オーストラリア|カラー|シネスコ|5.1chデジタル|字幕翻訳:風間綾平|PG12
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia 配給:ギャガ