『ワン・モア・ライフ!』映画レビュー

最近のイタリアンコメディ映画は冴えている。『おとなの事情』は、世界中で(日本も含めて)リメイクされ、ギネス記録にも認定された。『いつだってやめられる』シリーズは、日本でも三作品公開された。そして今回の『ワン・モア・ライフ!』である。

『ワン・モア・ライフ!』は、死んでしまった主人公が、ロスタイムをもらうストーリー。作風は軽快だ。シーンに似合う音楽の力も借りて、優美なパレルモの街を散歩する気分になる。重苦しさもなければ、深刻さもない。回想を挟みながら、残された時間をリアルタイムで描いている。

主人公のパオロは、幸せな人生を送ってきた。妻に二人の子ども、家賃の支払いは遅れ気味だが、古くて美しいパレルモの家、幾人かの愛人、サッカーを見る楽しみ、専門職も持っている。それが突然、途切れる。不注意というか、なりゆきというか、いつかは起きていただろう、まぬけな事故によって。

送り込まれたのは、死後にいく場所だ。人でごった返す駅の待合室にも、裁判所にも見える。ところがパオロは、計算間違いのせいで、もう一度人生に戻るチャンスをもらうことになった。その時間は92分。

パオロの人生のダメっぷりは、ツッコミどころ満載だ。悪びれることなく、浮気。容姿はなかなかだが、お腹がポコンとでているところがご愛敬。妻の浮気は気になる。つまり、妻との関係も、ぎくしゃくしている。顔を見ると、「怒っている?」と、つい聞いてしまう。子どもにも時間を取らない。彼は、思い残すことないよう、残された92分で関係を蘇らせることはできるのか。

パオロだけでなく、家族の姿も生き生きと描かれていて楽しい。登場人物の魅力は、誰に遠慮することもなく、まっすぐに欲求に向かうところにある。パオロは、友達との待ち合わせは必ず、自分の家の近くにする。妥協はしない。そのために、とうとう「まぬけな事故」にも逢ってしまうわけなのだけど。

楽しみや幸せは、自分でつかむもの。遠慮や他人任せでは得られないと思い切っている。代価は覚悟の上で。

残された10分間で娘と遊ぶ人生ゲームの解説書に、「人生ゲームの目的は、ステキな旅に出て、新たな人生を発見します。冒険をし、家庭を築き、予想外の出来事や喜びの連続ですが、最もお金を貯めた人の勝ちです」とある。日常の幸せ以上のものはない。些細な喜びに気持ちを向かわせてくれる作品だ。

オライカート昌子

ワン・モア・ライフ!
2019年製作/94分/G/イタリア
原題:Momenti di trascurabile felicita
配給:アルバトロス・フィルム