『理想郷』映画レビュー

これぞ映画の理想像!あらゆる感情がスクリーンから滲み出す
『理想郷』は、映画の最大の理想を実現している映画だ。人が持つあらゆる感情を刺激するという点で。人間の最高の部分、最低の部分を余すことなく描き出し、喜び、悲嘆、勇気、信頼、愛が七色のようにスクリーンから滲み出ている。

第35回東京国際映画祭では、『ザ・ビースト』というタイトルで上映され、東京グランプリ(最優秀作品賞)、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞を受賞。その時は、見逃していて、周囲のあまりの絶賛の声に、どれほどの映画なのだろうかと、大きな期待があった。

『理想郷(ザ・ビースト)』の話を聞いていると、途中から「主人公が交代する」という話が興味を引いた。途中までは、夫が主人公。その後、主人公は妻に代わる。映画としては変則的だ。だが、自然に無理なく、よどみなく描かれているらしい。

だから勝手に、夫婦の問題を描いた映画なのだろうと思っていた。その予想は大きく裏切られた。『理想郷』は、些細な夫婦のやり取りの映画というだけではなく、世界観の広さがあまりにも大きく深く、人間性をあぶりだす、とてつもない映画だったのだ。

『理想郷』は、スペインの自然豊かな山岳地帯が広がるガリシア地方の小さな町に移住してきたフランス人夫婦が出会う出来事が描かれている。朝には、山を見ながら外でゆっくりと、コーヒーを飲む。昼間は、有機栽培の野菜を作り、それを街の市場で売る。若者が出ていき人口が縮小している町を再生するために、廃屋を修理し、人を呼び、町を蘇らせたいという夢がある。

だが、町の人々の誰もが彼らの生き方を理解するわけではない、特に風力発電プロジェクトに関しての対立が根深く根底にある。はたしてその場所は彼らにとって『理想郷』だったのか。

心理サスペンスとラブストーリーが並列して描かれている『理想郷』だが、ある夫婦の物語として、そして娘と母の物語として、愛の大波が全てを洗い尽くす気持ちよさが、映画の価値を高めている。

『おもかげ』のロドリゴ・ソロゴイェンが監督・脚本。夫アントワーヌには、『ジュリアン』のドゥニ・メノーシェ。妻オルガを「私は確信する」のマリナ・フォイス。娘のマリア役に新人のマリー・コロン。

(オライカート昌子)

理想郷
11月3日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開
© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン
監督:ロドリゴ・ソロゴイェン 脚本:イザベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴイェン
撮影監督:アレハンドロ・デ・パブロ 
2022/スペイン・フランス/スペイン語・フランス語・ガリシア語/138分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:AS BESTAS/英題:THE BESTAS/字幕:渡邉一治
配給:アンプラグド 後援:駐日スペイン大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ