『パーム・スプリングス』映画レビュー

ときどき、日常はループ状になっているんじゃないかな、と思う。完全に閉じている円ではないけれど、同じことを繰り返している。同じ家、同じ家族、同じ電車、買い物するのも同じ店。多少の変化はあるけれど。

映画の中でも「タイムループもの」が特に楽しめるのは、そんな風に考えているからかもしれない。『恋はデ・ジャブ(1993)』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014)』、最近では『ハッピー・デス・デイ』も抜群に楽しんだ。『パームストリングス』は、そんなループものコメディ映画の新たなご機嫌作品だ。

『パーム・スプリングス』では、11月9日のタラとエイブの結婚式の日がループする。主人公は、アロハシャツを着たナイルズ(アンディ・サムバーグ)。花嫁付き添い人のミスティの彼氏だ。同じ日を繰り返しているナイルズにとっては、結婚式の出席者たちは顔なじみ。相手はナイルズの正体を知らない。だから彼は毎回、「僕はミスティの彼氏だよ」と自己紹介しなくてはならない。

ナイルズは、結婚披露パーティでスピーチを振られて戸惑う、タラの姉サラ(クリスティン・ミリオティ)に、助けの手を差し伸べ、軽快なダンスで誘う。深い仲になりそうなところで、ナイルズは謎の男に襲われ、ついでにサラをとんでもない状況に引きずり込んでしまう。ループの世界へようこそ!

繰り返しシーンの面白さとともに、良い役者、良い題材にストーリー、センスあふれた映像美、そして極め付きのセリフが揃っている。これ以上に求めるものはないぐらいだ。

主演の二人の表情の豊かさは見飽きないし、謎の男を演じるJ・K・シモンズの充実した存在感は格別だ。襲撃者として敵扱いだったのに、ラスト近くになると変化していく。その様子はじーんと心に沁み渡る。

オトナコメディ映画としても上出来だけれど、恋愛映画のパートや、人間ドラマ、そして少し哲学に足を踏み入れている部分も映画の魅力を増幅させる。

恋愛映画としては、サラとナイルズの関係、人間ドラマとしては、タイムループに関するそれぞれの捉え方の違い。その違いが行動を変化させていく。哲学としてはピリッと効いたセリフ。

ナイルズが言う。「さみしいって言ったけど、それはビールを飲みほしてから、次のビールの缶を開けるまでと同じ。つかの間の感情だ。全てそうだろう? 去っていくだけ」「全ては無意味」そんなつかの間のひと時や、無意味に見えることがむしろ輝くのは、映画のマジック。

同じところを行くからこそ、変化の違いが際立って、変化の喜びが貴重に感じられる。タイムループ映画は奥が深いね。

オライカート昌子
パーム・スプリングス
2020年製作/90分/PG12/アメリカ・香港合作
原題:Palm Springs
配給:プレシディオ
監督:マックス・バーバコウ
出演:アンディ・サムバーグ | クリスティン・ミリオティ | ピーター・ギャラガー 、J・K・シモンズほか