『テスラ エジソンが恐れた天才』

ニコラ・テスラの名前は、学校では習わない。あまり語られることのなかった人物だ。イーロン・マスクの登場と、彼が作った電気自動車のテスラ社によって、それが変わった。ニコラ・テスラは名前は一般に広がるようになった。『テスラ エジソンが恐れた天才』 は、天才二コラ・テスラの偉業と姿を描いている。

「可哀想な貧しい移民」、テスラが、世界を変える発明をしていく。ドキュメンタリー風の部分と、ストーリーを組み合わせた個性的な作りだ。ドキュメンタリーパートのナレーターを勤めているのは、大財閥J・P・モルガンの娘アン(イブ・ヒューソン)。テスラ(イーサン・ホーク)と交流を深めた女性だ。

アンをはじめとした、テスラの周囲にいる人物たちは強い印象を残す。アンは、出会った瞬間にテスラに魅了される。とてつもない人物に出会ったときの火花が飛び散るような感情がスクリーンに映し出される。

テスラに寄り添うが、テスラが別の女性に惹かれたことがわかると、引き下がることになる。後にテニスコートで再び顔を合わせるときに表現されるのは、冷たさとあきらめだ。

テスラが会ってみたかった別の女性とは、当時のスターの代名詞でもあった女優のサラ・ベルナール。サラもテスラに興味を惹かれるが、結局アンと同じような結末が描かれる。テスラにとって、一人で自分の心の世界や思考を突き詰めていくことが、何より優先されたからだ。

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ライバルでもあり、テスラに言及されると悪役扱いされることの多いトーマス・エジソンとは対照的だ。自分勝手でもあり、欲もあったエジソンだが、ある意味、世馴れていて、違うやり方を探っていく。テスラの友人でもあり、発明家でもあったシゲティも、やがてテスラの元を去っていく。

世界の人々のため、自分の発明を届けたいという思い。そのために、孤高であることを心ならずも選んでしまったテスラの生き方は、スティーブ・ジョブスとも重なり合う。思考を掘り下げた結果、精神世界に足を踏み入れることも似ている。

「私たちは思考で作られている」「思考に気を付けなさい」「思考は生きて遠くへ届きます」「学べば学ぶほど無知になる。さとりをひらけば、自分の限界を知る」というテスラを動かす言葉が並ぶ。

この世界は、思っているより大きな可能性に満ちていて、新しい世界は目の前に広がっているのではないかという思いに駆られることはないだろうか。この映画には、新世界へのキーワードというべきものが散りばめられていて、背筋が伸びる気がする。そのキーワードとは、火星、宇宙開発、宇宙生命体、新エネルギー、そしてこれからの世界をも変える可能性を感じさせるテスラコイル。

映画ラストの楽曲は、Tears For Fearsの1985年の『Everybody Wants To Rule The World』。この曲のせいで茶番めいた締めになってしまっているが、歌詞を見ていくと興味深い。なぜテスラは寂しい最後を送らなくてはならなかったのか。それほど支配の力は大きいのか。それは今も続いているのか。このラストは、私たちは、何を望み、何を求めていくのかを突き付けてくる気がする。

オライカート昌子

テスラ エジソンが恐れた天才
(c) Nikola Productions, Inc. 2020
監督・脚本・製作:マイケル・アルメレイダ 
出演:イーサン・ホーク、カイル・マクラクラン
2020年/アメリカ/英語/103分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:TESLA/字幕翻訳:中沢志乃/字幕監修:松浦基晴
配給:ショウゲート 
2021年3月26日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー