『モンタナの目撃者』レビュー

アリゾナ州。麻薬カルテル撲滅に挑む女性捜査官のトラウマ・スリラー
『ボーダーライン』(2015)★★★★★

テキサス州。ハワード兄弟の銀行強盗事件を克明に描いた犯罪スリラー
『最後の追跡』(2016)★★★★★

ワイオミング州。インディアン居留地で起きた少女殺人捜査スリラー
『ウインド・リバー』(2017)★★★★★

これら全て、マイノリティの果てない「希望」を描いた名作である。

これら作品にそれぞれ、「脚本」、「脚本・出演」、「脚本・監督」したのが
テキサス生まれのテイラー・シェリダンだ。

新作『モンタナの目撃者』では、「製作・脚本・監督」と八面六臂の活躍で、

タッグを組むのは、アンジェリーナ・ジョリー! と、きた。

いまや、数々の人道支援、そして監督業もこなすハリウッド女優。

そんなA・ジョリーがいままで見せたことのない表情を見せてくれる。

A・ジョリーが演じるのは、モンタナの山火事で孤立無援の中、
暗殺者に追われる少年を守るために戦う女性消防士。

『モンタナの目撃者』は、あるひとりの証人を抹殺するため、
一家もろとも木っ端微塵に吹っ飛ばされる衝撃のシーンで幕が開ける。

となると、
ミステリー・ファンは、ジョン・グリシャムの法廷モノを頭に描くだろうか。

映画ファンなら、社会派の名手、アラン・J・パクラを彷彿とさせるかな。

しかし、テイラー・シェリダンは、そんな粋で都会的な語り口が嫌いだ。

マイノリティ気質や弱者、トラウマの悩みを得意とする彼ならではの
地道で泥臭い語りは、この『モンタナの目撃者』でも健在なのだ。

とにかく、田舎の森林消防士ハンナを演じるA・ジョリーがイカシテいる。

悪夢にうなされ、心的外傷ストレス障害に苦しむハンナが見せる
不器用な母性本能が見る者の感情をも奮い立たせて離さない。

A・ジョリーはハンナについてこう語る。

「ハンナはすさまじい悲劇を経験し、いまも責任を感じています。
しかし、彼女はいつも平静を装い、誰の前でも勇敢に振る舞って見せるのです。
内面は壊れ、その後もずっと罪の意識に苦しんでいるのに」

続けて、
「私は強烈な女性キャラクターに引き付けられるんです。
単に、その人が強い女性か、ただの女性かは関係ない。
さまざまな問題を抱える人たちの物語を語りたいの」

物語は、ハンナと少年の背後に迫る凄腕の暗殺者の接近で急展開していく。

そして、行く手から迫り来る山火事の猛威にも立ち向かうこととなる。

このサバイバル・サスペンスの原作者にも興味が湧くだろう。

インディアナ大学在学中に、
探偵事務所や新聞社で働いた経験を活かし、
数多くのハードボイルド小説を発表し続けている
マイケル・コリータが原作者。

元探偵? 元新聞記者? こりゃ面白い。

そんな彼の『Those who wish me dead』が原作となる。

直訳すると、「死ねばいいのに」となるらしい。

これはきっと、ハンナと少年を執拗に追う暗殺者兄弟
(ニコラス・ホルトとエンダン・ギレン!)に向けたタイトルだろう、
と、頰が緩む。

時折、この暗殺者兄弟が主役をさらってしまうほど
奇妙で、えげつなく、ときに愛嬌あふれる描かれ方をされているからだ。

まさに映画的興奮に満ちたふたつのキャラクター。

とくに、エンダン・ギレン扮する暗殺者ジャック・ブラックウェルの
窮地は笑いを誘うかもしれない。

映画には深読みを誘うエピソードもさまざま。

いいねぇ、テイラー・シェリダン! と唸ってしまう。

たとえば、映画のラストから1年後の物語を頭で描いてみてはいかがか。

登場人物のその後を想像したくなる余韻に満ちた映画だからだ。

これは、書き出しの3作品にも共通する。

これぞ、マイノリティを描き続ける、シェリダン映画の神髄だ。

最後に、本国の代表的レビューを紹介して、キミの導火線に火をつけよう。

「無駄な時間が一切ない」(シカゴ・サンタイムズ紙)

「テイラー・シェリダン監督は衝撃的なサスペンスの構築法を知っている」
(ABCニュース)

「予測不可能だ」(ローリング・ストーン誌)

(武茂孝志)

モンタナの目撃者
9月3日(金)全国ロードショー

■監督・脚本:テイラー・シェリダン(『最後の追跡』『ウインド・リバー』)
■脚本:チャールズ・リービット
■出演:アンジェリーナ・ジョリー、ニコラス・ホルト、フィン・リトル、
エイダン・ギレン、メディナ・センゴア、ジョン・バーンサル
■全米公開:2021 年 5 月 14 日
■原題:Those who wish me dead
配給:ワーナー・ブラザース映画
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