
『セプテンバー5』は、最上クラスの仕事人映画だ。仕事をしていく上での適切な動き、対応力のエネルギーがハンパない。1972年、西ドイツ(当時)ミュンヘンオリンピックで起きた事件の様子を全世界へテレビ生放送していく。スタッフの思考や動きの当事者感覚を臨場体験していける。
ベルリンオリンピック会場内のabcスタジオ。衛星放送中継でアメリカ本国に向けて生放送ができる枠は、各局に時間で割り当てられていた。スタジオはレスリング生中継を予定していた。銃声が聞こえたのは、abcに割り当てられた時間内のことだった。何が起きているのか。
気が抜けない緊張感は最後まで持続する。テレビスタッフたちの姿はプロフェッショナルそのものだ.
起きていたのは、後に「黒い九月」事件と称されるイスラエル選手団を狙ったパレスチナ武装組織による人質事件だった。刻々と変化して行く状況に合わせ、テレビスタッフが臨機応変に仕事に向かっていく姿がほぼリアルタイムで描かれている。
事実をどう確認し、判明した事実をどのように正確に伝えていくのか。それぞれのスタッフの手腕と不安と緊張がスクリーンから溢れだす。
問題も起こる。生放送は犯人側でも視聴可能。テレビ放送を通じて、警察側のやり口もわかってしまう恐れがあった。報道のモラルと限界。できることできないこと。そのギリギリの線をたどっていく。
作り手や出演者の技にも注目したい。監督・脚本は『HELL』のティム・フェールバウム。
abcテレビスタッフの中心となるのは、若手で経験も少ないけれど、たまたま事件が起きた時間帯にプロデューサーの枠を任されていたジェフリー・メイソン(ジョン・マガロ)。彼の決断一つ一つが、映画に動的な緊張をもたらしていく。ジョン・マガロは2023年の映画『パスト ライブス/再会』などに出演。
ジェフリー・メイソンを支えるのは、ベテランテレビプロデューサーのルーン・アーレッジ(ピーター・サースガード)とオペレーション・マネージャーのマービン・バッダー(ベン・チャップリン)。
通訳のマリアンヌ(レオニー・ベネシュ)は無双の働きを見せる。まだ第二次世界大戦の傷も残る微妙な時期に西ドイツにおいてイスラエル人が巻き込まれる事件というのは、ドイツ人にとっても扱いに難しさがある。最善を尽くす彼女の姿は、『セプテンバー5』のなかでも特別な輝きを放つ。
セプテンバー5
2月14日(金)より、全国順次公開
監督・脚本:ティム・フェールバウム『プロジェクト:ユリシーズ』
出演:ジョン・マガロ『パスト ライブス/再会』
ピーター・サースガード『ニュースの天才』
ベン・チャップリン『シン・レッド・ライン』
レオニー・ベネシュ『ありふれた教室』ほか
全米公開:2024年11月29日
原題:SEPTEMBER 5
配給:東和ピクチャーズ
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