『Summer of 85』映画レビュー

『Summer of 85』のフランソワ・オゾン監督は、作品がほぼ日本公開されるフランスの人気監督だ。ただ彼の特徴や個性はわかりにくい。テーマはバラバラ。難解ではないけれど、一言で表現するのは無理に思える。

『Summer of 85』は1984年の夏のフランスのノルマンディーの海岸沿いの街が舞台。少年の恋、別れと死を描いている。裁判所での風景からスタートする上、「死体に魅せられている」という少年の言葉の響きは、ミステリアスだ。

それが一転、回想に入ると、軽快で呑気な空気が支配する。爽やかな夏のビーチの光景が目に鮮やかだ。あのころの年ごろの懐かしさ、1980年代の狂騒感、楽しさ、わくわく感。そう、まだスマホもパソコンも、ゲームもなかった時代は、あんな風に楽しんでいた。そのシンプルな喜びが、恋の盛り上がりとノスタルジーがあいまって、心の隅をうずかせる。

ディスコ、ウォークマン、ロッド・スチュワート。やがて突然来る破滅。恋も突然だし、破滅もそう、死はもっと素早くやってくる。一番大事なのは、墓の上でのダンス。ダンスというより、”爆発”という感じ。

こう書くと、強烈な作品に思えるかもしれない。でも全然違う。語り口は滑らかでチャーミング。題材やストーリーや舞台仕立てのあくの強さと、語り口の柔らかさ。そのギャップがフランソワ・オゾンの流儀なのか。

この監督は、間の悪さや気恥ずかしい部分を物怖じせずに、あえて取り上げるところがある。できれば口にしたくない、知られたくない部分。秘密とまではいかないけれど、ちょっと隠しておきたい心の奥のドアの向こう。自分の中のそんな部分に突き当たると、一瞬ギョッとしてしまう。それを映像とスムースな語り口で描いていく。きっとそこが、すがしさに通じて心地がいいのだ。


(オライカート昌子)

Summer of 85
8月20日(金) 
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、
Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
配給:フラッグ、クロックワークス 公式サイト:summer85.jp 【PG-12】
原題:Ete 85/英題:Summer of 85 公式Twitter/Instagram:@summer85movie
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
8月20日(金) 
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、
Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開