『愛にイナズマ』映画レビュー 定形外の魅力がほとばしる

『愛にイナズマ』は、見ている側が絶句するセリフがどんどん繰り出される。分厚い情報量、緊張と本気が伝わる練り上げられたシーン。色彩、勢い、曲がりくねり、ジャンプアップするストーリー。面白さの絶対量も抜群だ。

主人公の折村花子(松岡茉優)は、ウィキペディアにもページがある映画監督。予算1500万円の映画製作にゴーサインが出され、『消えた女』というタイトルの映画の準備中だ。そのストーリーは、自分の家族の話であり、『消えた女』とは母のこと。時期はコロナ真っ盛り。誰もがマスクに気を使っている。

花子は、ある日喧嘩の場面に遭遇する。そこで出会ったのは、普通の人とはちょっと違う空気感を持った舘正夫(窪田正孝)。意気投合する間もなく、花子は人生最大の挫折を味わう。準備していた映画が、企画から何から取り上げられてしまった。しかもお金も支払われていない。彼女はどのように立ち直るのか。

一つの挫折、一つの出会い、一つの家族の姿を通して、”流転する今”描こうとする石井裕也監督の覚悟と才能、そして緻密さに圧倒される。”今”こそ、日本映画は、新鮮度と豊かさで最高潮な時期を迎え始めている。

今までの邦画のほとんどが、歌舞伎の型のように、”こうである”というものに従ってきた。それをあえて捨て去る。そうでもしなければ、映画の内的豊穣は滅ぶ。

『愛にイナズマ』の前半の助監督やプロデューサーとの会話は、まさにそこを描いている。今までのやり方を通したい助監督と、突発的なことや直感を重視する花子のやり方のちぐはぐな様子。そのお互い譲れないやり取りが、面白い。

周囲と同じこと、以前と同じやり方は正しいのか。”理由がないこと”、”若いこと”、”女子”、”空気が読めない”ことは、負なのか。

コロナを超えて、世界は激変しつつある。あらゆるものが変化し始めている。映画だってそうなのだ。日本映画は、世界に先駆けて、勢いのある映画が増えてきている。『愛にイナズマ』は、その代表選手だ。

ちなみに、”愛にイナズマ”のシーンは、実際にある。そのシーンは、考えてみれば、コロナ中に推奨されたソーシャルディスタンスの正反対の行動だ。感情をふわりと刺激してくれる。

一つの時代を終えて、新たな時代が始まる。その期待感は、日本映画の新たな扉を感じさせ、ワクワクせずにはいられない。

(オライカート昌子)

愛にイナズマ
2023年/日本/2時間20分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
©2023「愛にイナズマ」製作委員会
ainiinazuma.jp ⚡
10月27日(金)全国ロードショー!

キャスト:松岡茉優 窪田正孝 池松壮亮 若葉竜也 / 仲野太賀 趣里 / 高良健吾
MEGUMI 三浦貴大 芹澤興人 笠原秀幸 / 鶴見辰吾  
北村有起哉 / 中野英雄 / 益岡 徹 
佐藤浩市

監督・脚本:石井裕也
主題歌:「ココロのままに」エレファントカシマシ (ポニーキャニオン)