『ヒックとドラゴン』映画レビュー 飛翔する新時代のテーマ

時代は変わった。映画のテーマが転換した。実写版『ヒックとドラゴン』は、それを強く感じさせる作品だ。アニメーション版『ヒックとドラゴン』の一作目は、2010年。その後二作目、三作目と作られた。今までの『ヒックとドラゴン』シリーズは、相当評価が高かった。今回の実写版『ヒックとドラゴン』は、それに劣らないどころか、満足度が高い要素が数多い。広大なバイキングの世界を背景にしたドラゴンとの飛翔シーンは、今まで見たことがないほど長く高く、エモーショナルにダイナミックに魅せる。

実写版『ヒックとドラゴン』の新時代にふさわしいテーマは、敵味方の二元論から飛躍しているところ。今までは、映画でも物語でも、善と悪との二元対決が多かった。ときに善が勝ち、ときに悪が勝つ。勧善懲悪のスカッとした気持ちよさを味わうために映画館に通う人も多かっただろう。

『ヒックとドラゴン』が鮮やかに表現しているのは、両サイドが融和すること。オープニングシーンとラストシーンに、それが見事に表現されている。同じ場所なのに全く違う。くっきりとしたコントラスト。今までのような善と悪の対立を超えた次元の違いがこれからの映画界のテーマなのだ、と宣言しているような気がした。

その変化をもたらしたのは、主人公のヒック(メイソン・テムズ)。鍛冶屋として働きながら、族長の父ストイック(ジェラルド・バトラー)のようにドラゴンスレイヤーを目指している。ヒックは独自に開発した武器を使って、誰も目にしたことのない伝説のドラゴン、ナイト・フューリーを撃ち落とすことに成功した。最初は得意満面だったヒックだったが、弱っているドラゴンを助けることにした。そこから、原作の原題「How to Train Your Dragon(ドラゴンの訓練法)」のストーリーが始まる。

ヒックが見せてくれるのは、自分に正直であること。得意なことや好きなことを伸ばすことの大切さ。それを淡々と追求していくことが、全体に貢献することにも結び付く。ヒックは、ひとりひとりと味方を作り、全体に影響を与えていく。ただし、父の族長は頑固一徹。復讐を心に近い、どんな犠牲を出そうと、ドラゴンをせん滅させようとしている。どのように親子は和解できるのだろうか。

バーク村の族長でヒックの父親をアニメ板と同じジェラルド・バトラーが演じている。彼の変化具合も意外性が大きい。自由自在で奔放な演技は、彼独自のもの。『300 スリーハンドレッド(07)』を思い出させた。『ヒックとドラゴン』は、ジェラルド・バトラーの新たな代表作となったかもしれない。

(オライカート昌子)

ヒックとドラゴン
大ヒット上映中
©2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:東宝東和
監督:ディーン・デュボア 製作:マーク・プラット、アダム・シーゲル 
出演:メイソン・テムズ、ニコ・パーカー、ジェラルド・バトラー、ニック・フロストほか
日本語吹替:坂東龍汰、Lynn、田中正彦、高木渉、内田雄馬、村瀬歩、神谷浩史、斉藤梨絵 ほか
配給:東宝東和 映画公式サイト:https://hic-dragon-movie.jp/