『エスター(2009) 』は、面白さと衝撃にあふれた作品だった。人におすすめせずにいられないほど。『エスター ファースト・キル』は、その前日譚。あの事件の前に起きたストーリーだ。
『エスター』を楽しんだ人は、大いに期待を持ってしまうところだ。同時に、『エスター』の最後のショックが大きかっただけに、あれ以上のものがあるのかどうか、危ぶむ気持ちもあるだろう。しかし、期待は裏切られない。『エスター ファースト・キル 』のショックも特大だ。私は、椅子からのけぞりそうになった。それは、映画の半ば過ぎに起きる。ちなみに、万が一『エスター』を見ていない人でも楽しめるはずだ。
最初は、予測通りに進む。エストニアの医療療養施設で、危険人物とされ、監禁されていたリーナ(イザベル・ファーマン)。彼女は、頭脳と狂暴性を兼ね備え、たちまち逃亡。そして、アメリカのコネチカット州で行方不明になっていた、エスターという少女に成りすまし、まんまとアメリカ有数の名門家庭に潜り込む。
エスターの正体が、いつ家族や精神科医にバレるのか、バレないのか、ハラハラドキドキのサスペンスが展開する。
そうこうしているうちに、ストーリーはワープする。予測の斜め上を行く。身を乗り出してしまうだろう。あるいは、わたしのようにのけぞりそうになるか。
エスターは、悪女の中の悪女なのだけれど、映画で描かれる一般的な悪女ではない。一般的な悪女は、善の側を際立たせるために登場する、あるいは、純粋な敵役。エスターはその枠より存在感がある。まさに主役級なのだ。
『エスター ファースト・キル』では、ピアノ演奏や、絵画の才能も発揮。少しだけ、優しさも見せる。もし、普通に育つことができたなら、どんなに素敵になったのだろうかと、ないものねだりの気持ちになる。
主役級の悪と言えば、ロザムンド・パイクが、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を獲得した『パーフェクト・ケア』の法定後見人のマーラがいる。マーラの目的を達成するための強さには、驚くしかなかった。エスターも、度胸、狂暴さ、真っすぐ欲しいものをとろうとするところ、そして自分に正直なところは、マーラに引けをとらない。
悪女の世界も進化している。主役級の悪女は、自尊をもって我が道を行く。そして、幸せを求める心にちょっぴり魅せられる。これは悪女に対する愛と言ってもいいのだろうか。
エスター ファースト・キル
3月31日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
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監督:ウィリアム・ブレント・ベル脚本:デヴィッド・コッゲシャル
原案・製作総指揮:デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック
プロデューサー:アレックス・メイス/ハル・サドフ/イーサン・アーウィン
出演:イザベル・ファーマン/ジュリア・スタイルズ/ロッシフ・サザーランド/マシュー・アーロン・フィンラン
(アメリカ/99分/R-15/カラー/5.1ch)配給:ハピネットファントム・スタジオ