
韓国発のサスペンス・スリラー『侵蝕』は、見る人の立場によって感想が変わる作品だと思う。どんな作品もそうだけど、『侵蝕』は特にその違いが大きいようだ。子どもがいない人にとっては、一般的なサスペンスに思えるかもしれないが、子どもがいる人で、子育てに難しさを抱えている人にとっては、単なるサスペンスを大きく超えたトラウマ級の作品として心をえぐる。
子育ての段階では、いつも物事がスムーズにいくわけではない。どこかしら、不安やおそれを持ちつつ、希望と信頼を糧にして毎日を戦場のような状態で過ごす場合だってある。その戦いは勝ちか負けか。それはあとにならいとわからない。勝ちも負けもないという達観の心境になるには、子育て以上に自分育ても必要になる。
「ママ、人は死んだらどうなるの?」
「いい人は天国へ行って、悪い人は地獄へ行くのよ」
「じゃあ、私たちはふたりとも天国へは行けないね」
娘ソヒョンは、あどけなさが残る7歳の幼稚園児。見ている側が、ソヒョンが変わった子どもだと気づくのは、この会話からだ。
サスペンス・スリラーといっても、エンタメ大国韓国発の作品なこともあって、内包するテーマも人間の描き方も重層的。ソヒョンがどうなったのか、その謎がわかるのも相当先だ。薄情や欠落も描き出しつつ、人情や温かさも対比として描かれている。
母ヨンウン(クァク・ソニョン)にしたって、自分のできる範囲を受け止め、最善を尽くしている。多分、娘のソヒョンにしたってそうなのだ。人から見れば、変わった子どもだけれど、本人にとっては、それしかできない。登場人物一人ひとりの心根が十分伝わってくる作品だ。
韓国社会の実情も透けて見えてくる。問題を抱える娘を前にして、親はどうすればよかったのか。何ができるのか。そこまで考えさせられる、社会派サスペンスの背景も描かれている。
侵蝕
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9月5日(金)新宿ピカデリー ほか全国公開
配給:シンカ
脚本/監督:キム・ヨジョン、イ・ジョンチャン 出演:クォン・ユリ(少女時代) 「仮釈放審査官 イ・ハンシン」、クァク・ソニョン「ムービング
」、イ・ソル「D.P. -脱走兵追跡官-」、キ・ソユ「私たちのブルース」
2025年/韓国/韓国語/112分/カラー/2.39:1/5.1ch/原題:침범/英題:SOMEBODY/字幕翻訳: 平川こずえ/G 配給:シンカ
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