『フェラーリ』映画レビュー 死と美と生を突き詰めたイタリア的本質

イタリア男にどんなイメージを持っているだろうか? お洒落で大人。美味しい食事はマスト。女性を見れば、礼儀として口説く。人生を愛し、母や家族を愛す。そんなイメージが思い浮かばないだろうか。

だが、本来のイタリア男性には、凄みや情がある。そしてその本質の方が、ずっと注目すべきものだ。最近見た2本のイタリア映画と、一本のイタリアを舞台にした映画を見て、そう思うようになった。

一本の映画は、『ラ・カリファ』、もう一本の映画は、イタリア映画祭2024オープニング作品、『潜水艦コマンダンテ誇り高き決断』。そしてもう一本の、イタリアを舞台にした映画が、この『フェラーリ』だ。

『インサイダー』や『ヒート』で、男の美学を追求してきたマイケル・マン監督は、『フェラーリ』でも、節度と規律で男の姿を描いている。『フェラーリ』は、表面は優美で柔らかだが、その骨格は太くて強靭。そして器は、果てしなく広い。

映画の持つ感触は、主人公エンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)の姿で強調されている。元レーサーにして、カーデザイナー、そして戦後の1947年に妻のラウラ(ペネロペ・クルス)と二人でェラーリ社を設立。イタリアの至宝と称される自動車メーカーにまで育て上げた。

映画の舞台は、1957年。フェラーリ社は、イタリア全土 1000マイル縦断の公道レース【ミッレミリア】に挑戦する。その激動の一年が描かれている。今まで、謎に包まれ、賛否両論にさらされ、エゴイストとまで称されたエンツォ・フェラーリが、強固ながら、優雅で落ち着きと静けさで圧倒する。

映画で描かれるエンツォ・フェラーリの強固さが表現されているのは、仕事に対する決断と意思。私生活は、愛人とその間にできた子ども、そして妻との関係が描かれていて、不安定に見える。だが、エンツォは、妻には愛人と子どもの存在をできる限り隠し、妻への態度も節度が見える。たとえピストルで撃たれようとしても。

フェラーリ社は、車を売るためにレースをするのではない。レースをするために車を売る。フェラーリカーが美しいのは、「いいものは美しい」というシンプルな法則にしたがっている。一番凄みを感じさせる点は、エンツォ・フェラーリの死に対する考えだ。車やレースには事故がつきもの。映画でも早々に事故が起き、死が訪れる。

それに対して「切り離す」とエンツォは語る。考えすぎない。そうしなければ、仕事は進まない、次のレースに向かうこともできない。人によっては、情がないとも思えるところだ。だが、そうではない。死があってこその生。そして、レース。「死と背中合わせの情熱、恐るべき喜びだ」と彼は言う。選択と覚悟と意思の問題となる。

美しい車、美しい時代、美しい男たちと女たち。死と生と美を突き詰めるところに生まれる、無駄なものを省いた世界。それこそ、イタリアの本質なのだろう。

(オライカート昌子)

フェラーリ
7 月 5 日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
(C)2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:キノフィルムズ
CAST
エンツォ・フェラーリ:アダム・ドライバー
ラウラ・フェラーリ:ペネロペ・クルス
リナ・ラルディ:シャイリーン・ウッドリー
アルフォンソ・デ・ポルターゴ:ガブリエル・レオーネ
リンダ・クリスチャン:サラ・ガドン
ピーター・コリンズ:ジャック・オコンネル
ピエロ・ タルッフィ:パトリック・デンプシー

STAFF
監督:マイケル・マン
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
原作:「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」 by ブロック・イェイツ
【2023 年|アメリカ・イギリス・イタリア・サウジアラビア|英語・イタリア語|カラー・モノクロ|
132 分|映倫区分:PG12