『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』映画レビュー 謎の言葉が残す余韻

『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』には、驚かされた。あらすじを知らずに見始めたため、余計にびっくりした。これほど中身のぎっしり詰まった映画だったとは思わなかった。

潜水艦が発進するまでと、発進してからの序盤は、ゆったりと進んでいく。漂うのは、詩情とそれに絡まる悲しい予感だ。危機は訪れ、犠牲者も出る。

時は第二次大戦中の1940年。イタリアはドイツ・日本と同盟を組んだファシズム国。潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは70メートルのイタリア海軍の小型潜水艦であり、乗組員同士の距離も近く、設備も貧弱。それほど立派な潜水艦にも見えない。このままの流れで淡々と進んでいくのだろうか、と思ったところで、ストーリーの質が大転換する。

単なる潜水艦映画、あるいは戦争映画の枠を超えている。モンスターは登場しないが、モンスター級のものが首をもたげ、大きな口を開けるような勢いでステップアップする。話が核心に近づくにつれ、映画の全体的なイメージは大きく膨らむ。豊かな世界が繰り広げられていく。

いい映画には全てがある。喜び、悲しみ、雄々しさ。苦痛と安楽、醜さと美、そして驚きだ。『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』の驚きは、タイトル通りの、艦長サルバトーレ・トーダロの決断だ。

『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』を見れば、あなたがイタリア人に関して固定的なイメージをもっていたとしても、一新するだろう。情の深さが眩しく思える。気高い古代ローマから続く長い伝統と誇りが今も息づいている。それは日本人の心とも共通している気がした。

熱いシーンで語られる話題が日本の明治天皇の言葉だったので、アッと思わず声をあげそうになった。実は、コマンダンテ・カッペリーニ号は、日本と縁がある。戦争の推移とともに日本に拿捕されたこともあり、旧日本軍で特殊警備潜水艇として働くこともあった。そして、1945年の日本軍降伏後に連合国に接収され、紀伊水道で海没処分された。

持ち主が変わろうと、艦の名称が変わろうと、イタリア人水兵が乗艦しており、彼らは戦後も日本に残り遺族は現在も日本で暮らしているという。

映画の序盤、乗艦前に、艦長に与えられた謎の言葉がある。字幕がつかないから、意味も分からない。艦長自身もわからない言葉だった。それがわかるのは、そんな出来事があったことすら忘れていたラスト近くだ。しかも意味がわかったところで、インパクトがあるほどのものではない。

ところが、終演後になぜかその言葉が、頭に残る。インパクトはないけれど、世界がより深く味わえるような気がしてくる。

(オライカート昌子)

潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断
7月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
監督:エドアルド・デ・アンジェリス 脚本:サンドロ・ヴェロネージ、エドアルド・デ・アンジェリス
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、マッシミリアーノ・ロッシ、ヨハン・ヘルデンベルグ、パオロ・ボナチェリ、シルヴィア・ダミーコ
撮影:フェラン・パレデス・ルビオ 音楽:ロバート・デル・ナジャ(3D)
2023/イタリア・ベルギー/イタリア語・オランダ語・英語/シネマスコープ/121分/原題:Comandante/後援:イタリア文化会館/字幕翻訳:岡本太郎/配給:彩プロ 映倫区分:G
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