『サブスタンス』レビュー

ハリウッドの名所、ウォーク・オブ・フェイム。
デミ・ムーア扮する往年の名女優エリザベスのネームプレートが
観光客に踏んづけられて汚れていくさまに映画の行く末が見える。

さらにテレビ局のカーペットが『シャイニング』の舞台コロラドホテル、
そのカーペットに酷似いることで「それ」が確信に変わる。

『サブスタンス』は女性監督コラリー・ファルジャの作品で15歳未満禁止。
デビュー作『REVENGE リベンジ』(2017)もそうだった。
フランス映画特有の血しぶき満載スプラッター映画で辟易したしなぁ〜。
しかし『サブスタンス』は、全世界277ノミネーション、
驚きの133受賞の話題作で文句付けようのないエンターテイナー作品だ。

50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベスは、
容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病み、
若さと美しさと完璧なボディが得られるという薬品「サブスタンス」に
手を出す。
この違法薬品を注射するやいなやエリザベスの背が破け、
スーという若い自分が現れる。
若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持つスーは、
いわばエリザベスの上位互換とも言える存在で、
たちまちスターダムを駆け上がっていく。
しかし、エリザベスとスーには
「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という
絶対的なルールがあった。
そんなある日、スーがルールを破ってしまう。

この映画、例えるならばモンスター映画だ。
1987年、日本でヒットした『悪魔の毒々モンスター』を彷彿させる。
臆病な清掃員のメルビンは、勤務先のフィットネスクラブで
客から嫌がらせを受ける日々を送っていた。
そんなある日、彼は工場廃液を浴びたことをきっかけに、
超人的なパワーを手に入れるリベンジ・ムービー。
製作のトロマ作品群はカルト映画として取り上げられる事もあり、
あまりのくだらなさから「おバカ映画」とも呼ばれ
馬鹿馬鹿しさを楽しむための映画であるため、
鑑賞の際には寛容さが必要と揶揄された。

コラリー・ファルジャ監督はこの路線を引き継いだの?
と思いながら拝見したが、監督いわく
「ユーモアは映画にとって重要な要素で、観客を楽しませながら、
話したいことを伝えるすばらしい方法です。
暴力自体は嫌いだけど、暴力という手段を表現に使うことは好きです。
私の描く暴力にユーモアが含まれることが多いのは、
そうすることで暴力を受け入れやすくなり、
一種の解放感のような安心感を与えてくれるから。
もはや、楽しむことだってできます。私にとっての喜びとは、
過剰なほど大げさで、何に対しても尻込みしないことです。
現実的で暴力的な撮影でも、頭ひとつ抜け出すと別の何かが生まれると
思っています。それはトラウマを植え付けるようなものではなく、
象徴的なものであり、想像力をかき立てるものです。
見る人の感情を揺さぶって、心に残すことができる。
そんなパワーにすることができると思います」

この3月上旬発表された第97回アカデミー賞では作品、監督、
主演女優賞に加え、なんと脚本賞にもノミネートされ大いに注目を浴びた。
そしてピープル誌の「今年最も美しい女」にデミ・ムーアが選ばれた。
「サブスタンス」に出演した英断に対するご褒美でもあるだろう。

デミ・ムーア扮するエリザベスの分身、スーを体当たりで演じた
マーガレット・クアリーも見事な役回りで今後が楽しみな女優である。
女性を雑巾のように使い回し、エビを素手でむしゃぶり喰う
テレビ局の重鎮ハーヴェイを熱演した名脇役デニス・クエイドには
熟したトマトをぶつけてやりたい、笑。

レビューの最後にこっそりと「歳を取らない、老けない方法」を教えよう。
毎日同じ時間、同じ場所で自撮り動画を撮り続けること。
そしてその映像を保存し続けること。
これは『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)で実証済みである。
ぜひお試しあれ。

(武茂孝志)

『サブスタンス』
5月16日(金)より全国順次ロードショー
■監督・脚本:コラリー・ファルジャ 『REVENGE リベンジ』
■出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
■配給:ギャガ   
■ 映倫区分:R15+ 

■ 原題:The Substance/イギリス・フランス/142分/R-15
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