『キネマの神様』ポイント解説と映画レビュー

映画『キネマの神様』ポイント解説

映画『キネマの神様』とは

松竹映画100周年記念作品記念作品でもあり、日本映画界を代表する山田洋次監督の89作目の作品。原田マハさんの小説、『キネマの神様』を脚色した作品です。映画レビューとともに『キネマの神様』を楽しむポイントをあげてみました。

三つの時空を旅する

映画『キネマの神様』では、現代編と過去編という二つのパートが描かれていて、それぞれが関わり合い、作品世界を豊かにしています。

過去編
過去編は、1950年代から60年代の撮影所の人間模様が描かれ、主人公のゴウの青春が描かれています。最初に現代から過去へと向かうシーンが、みどころの一つ。女優の目のクローズアップにゴウの姿が映し出されます。

現代編
現代編でスタートするのは、2019年のラグビーワールドカップで日本中が沸いていた頃。今思うと、そんなときもあったなというぐらい様変わりしている世界ですが、たった二年前のことでした。

新型コロナ後の世界
映画で登場人物がみんなマスクをしているシーンが描かれるのは、『キネマの神様』が最初ではないかと思います、松竹映画100周年記念作品ということで、今後の映画界を支える気概を持って公開にこぎつけた作品という重みを感じさせます。

菅田将暉と永野芽郁、沢田研二と宮本信子のカップル演技合戦

若き日のゴウを菅田将暉、若き日の淑子を永野芽郁、現代のゴウと淑子は、沢田研二と宮本信子が演じていますが、このカップル合戦はみどころたっぷり。若いカップルの演技と存在感のまばゆさは特筆すべきもの。久しぶりに大きな役を演じている宮本信子さんの優しさと年月を重ねた実感溢れる演技は見ごたえがあります。

キネマの神様 映画レビュー

映画『キネマの神様』を一言でいうと、今の映画界を取り巻く状況を正確に表している作品だと思う。映画界が華やかなイメージだったのは、かなり前。娯楽の王様だったのはもっと前だ。

主人公ゴウが助監督として働いていた撮影所のパートは、1950年代から60年代。まさしく撮影所が夢工場であり、娯楽のトップランナーとして輝いていた時代。才能と欲望と憧れの中心地だった。

一方、現代パートでは、映画界は、寂しくなり始めている。昔は映画に賭けていたはずのゴウも、いまや毎日をパチンコ、競馬、お酒、時々公園の掃除で過ごしている。若い人なら、それはゲームやyoutubeだろう。娯楽は、できるだけお手軽に、というのが本音なのだ。

映画という媒体を使っている以上、真意としては、映画の世界は素晴らしいというところまで描きたかったのでは? と想像するけれど、現実は厳しく無情だ。昔は夢工場であり、今は夢の跡地。もし、その事実自体を狙って描いているなら、それはそれで的を得ている。

映画自体、昔のパートは艶めいていて陽気で楽しい。現代パートは、あて書きしていた主演予定俳優の急逝というアクシデントがあったこともあり、寂しさが影を落とす。

過去は今に橋を架けている。その橋は、夫婦のあり方という人情部分。山田洋次監督のメインテーマだ。その描き方は、理想的過ぎるような気もしないではない。けれど、その理想をあくまでも追及していくところが、山田洋次監督のあり方なのだろう。最後は胸が熱くなる。黄金に輝いていた映画世界への郷愁と、誰もが年をとり、すべてが変転することに。それも神様が与えてくれた一種の贈り物なのだろう。

(オライカート昌子)

キネマの神様
大ヒット上映中
(C)2021「キネマの神様」製作委員会
2021年製作/125分/G/日本
配給:松竹