『ボーはおそれている』レビュー

アリ・アスター監督の映画となれば、多くは語れない。

まずは本国レビューが気になるからご紹介しよう。

「とてつもなく不気味で、めちゃくちゃ面白い」(Variety)

「天才作家による映画が生まれた」(Rolling Stone)

「アリ・アスターがこれまでに作った中で最も恐ろしい作品」(Indiewire)


マーティン・スコセッシも賞賛する。

「現代にはこんなレベルの映画を作れるフィルムメーカーはほとんどいない。

ファーストカットは、最高にゾッとしたよ!」

ポン・ジュノも吠える。

「傑作だ! 過去に観た中で一番圧倒された作品」

あのギレルモ・デル・トロも、

「ユーモアと悪夢が共存し、自由気ままな反面、緻密に描かれている傑作!」

と、いずれもたいへんな評価だ。

エマ・ストーンもレビューを寄せている。

「ボーに共感してしまう〜。この映画大好き。本当に傑作だと思う!」と

もうメロメロだ。


『ヘレディタリー/継承』(2018年)で映画ファンの注目を集め、

『ミッドサマー』(2019年)が全世界で大ヒットを記録するだけでなく、

多くの観客に“消えない傷”を植え付けた天才監督アリ・アスターが、

気鋭の映画スタジオA24と3度目のタッグを組んで世に放つ最新作。

日常のささいなことでも不安になる怖がりの男ボーはある日、

さっきまで電話で話していた母が突然、怪死したことを知る。

母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、

そこはもう“いつもの日常”ではなかった。

これは現実か? それとも妄想、悪夢なのか?


次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、

いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。

主演を務めるのは『ジョーカー』(2019年)でオスカーに輝いた

名優ホアキン・フェニックス。

これまで様々な作品で怪演を見せてきた彼が

極限の演技と表情を見せる本作は、そのキャリアの到達点になるのか。

冒頭、歯磨き粉を飲み込んでしまい、

主治医に「胃がんになりませんか?」とおののきながら問うボーは

極度のマザコンであるようだ。


先のスコセッシが挙げた「ファーストカットは、最高にゾッとしたよ」は

ボーが母親の胎内から取り上げられた瞬間に産婆さんに誤って床に落とされた

シーンなのだが、これこそがアリ監督の得意とする恐怖と笑いの混在だ。

とくにこの『ボーはおそれている』でアリ監督が憂いているのは、

今後この世の中はAIが生身の人間にとって代わって行くのではないか、

と言うおそれなのかもしれない。

ハイブリッドヒューマンの台頭。

これにより、世の中から失敗やおそれやマザコンなんて思考が無くなる。

この「恐怖」を憂いているのかもしれない。

ボーのながい旅路(おそれ)は永遠とつづく。

そして突然、1998年の「あるアメリカ映画」のラストを彷彿とさせて

幕を降ろす。

その映画を知っていると、ちょっぴりと腑に落ちるから不思議だ。

(武茂孝志)

『ボーはおそれている』

2月16日(金)より全国公開

原題:BEAU IS AFRAID

配給・制作:A24 北米公開:2023 年 4 月 14 日

監督・脚本:アリ・アスター 『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』

製作:ラース・クヌードセン、アリ・アスター

主演:ホアキン・フェニックス 『ジョーカー』『カモン カモン』

出演:ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ヘイリー・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、カイリー・ロジャーズ、アルメン・ナハペシャン、ゾーイ・リスター=ジョーンズ、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン

撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ 『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』

プロダクションデザイン:フィオナ・クロンビー 『女王陛下のお気に入り』、『クルエラ』

編集:ルシアン・ジョンストン

衣装デザイン:アリス・バビッジ

音楽:ボビー・クルリック

キャスティング:ジム・カーナハン

視覚効果監修:ルイ・モラン

上映時間:2 時間 59 分

映倫区分:R15+

HP: https://happinet-phantom.com/beau/

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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